2009/03/15

チェンジリング

ある日、忽然と姿を消した息子。捜索を願い出る母親。やる気の無さで応じるロス市警。数ヶ月後、発見保護された息子が戻ってくるが、それは全くの別人だった。偽者を本物と言いくるめ、組織防衛と保身を図る警察幹部の怠慢が母親を追いつめる。

この間オスカーの受賞式でインドの音楽家が、「自分は何一つ持っていない、しかし母親がいる」とスピーチしていたが、母親というものは、いつ如何なる時でも我が子を無条件に受け入れる。無条件ということでいえば神をも凌ぐ懐の深さで、母親の素晴らしさについては様々な人が様々な言葉にしている。中には、「 ひとたび子の為になったが最後、古来如何なる悪事をも犯した、恐ろしい「母」の一人である。」という芥川のような言い方もあるが、「母」を描いて、挫けずへこたれぬ不屈の闘魂として結晶させるのはいかにもクリント・イーストウッドらしい。

子を思う一心でやつれ果てる母。子を思う一心でどんどん強くなっていく母。アンジェリーナ・ジョリーは眼光の鋭さの裡に不安感を滲ませ、不敵な面構えに不穏な空気を漂わせながら、子の安否を気遣うあまり、時に挫けそうになる母親の心情を陰影豊かに表現している。クリント・イーストウッドの語り口も肌触りが心地よく、観客はひとたびその呼吸に同期したら、あとは力強い流れに身を任せるだけだ。
なんて気分で観ていたら、中盤から物語の思いがけぬ猟奇的な展開に肌触りの心地良さなんて吹っ飛んでしまった。母ものと見せて、さらに重層的に構築した問題を矢継ぎ早に繰り出してくるクリント・イーストウッドの明晰さと、年齢を感じさせぬ腕力に刮目する。母親も凄いが、常に前進し衰えを知らぬクリント・イーストウッドも凄いのである。

1920年代のロサンゼルス風景を随所にたっぷり織り込んでいるが、これがCGとは言え質量共に素晴らしい映像で楽しめる。それこそ、チャンドラーが愛したロサンゼルスとはこんな感じだったのであろうとかと、頭の隅にあらぬ事も浮かぶほどに魅力的な映像で、イーストウッドはCGをどう使うべきか良く心得ており、使い方も非凡なのである。


原題:Changeling
監督・製作・音楽:クリント・イーストウッド
脚本:J・マイケル・ストラジンスキー
製作総指揮:ティム・ムーア、ジム・ウィテカー
製作:ブライアン・グレイザー、ロン・ハワード、ロバート・ローレンツ
撮影:トム・スターン
美術:ジェームズ・J・ムラカミ
出演:アンジェリーナ・ジョリー、ガトリン・グリフィス、ジョン・マルコビッチ、コルム・フィオール、デボン・コンティ、ジェフリー・ドノバン、マイケル・ケリー、ジェイソン・バトラー・ハーアンジェリーナ・ジョリー、ガトリン・グリフィス、ジョン・マルコビッチ、コルム・フィオール、デボン・コンティ、ジェフリー・ドノバン、マイケル・ケリー、ジェイソン・バトラー・ハーナー、エイミー・ライアン、ジェフリー・ピアソン、エディ・オルダーソン
2008年アメリカ
2時間22分
東宝東和