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2009/09/05

九月大歌舞伎


久しぶりの昼夜通し。このところ遅寝早起きのが続いたので長丁場は体力的に不安だった。案の定、口開けの「竜馬が行く」からトロトロしていたが、いきなりグラッときたもんだで一気に目が覚めた。大した地震でなくても3階席は揺れが増幅されるようで迫力があるのである。

「昼の部」
「竜馬が行く」も3年目でとうとう最期の1日。潜伏中に発熱して暗殺されるだけの話でさっぱりしない。2年目が一番良くできて楽しかったかな。
「時今也桔梗旗揚」小田春永にトコトン虚仮にされた武智光秀の謀反。公演3日目、この時期には良くあることなのだろうが、台詞を忘れる場面が何度かあり、その都度舞台に緊張感が充満、物語とは関係なくハラハラさせられた。
「河内山」全然不良っぽくない河内山。本当に真面目な幸四郎
夜の部
「勧進帳」幸四郎、吉右衛門、染五郎の安定感
松竹梅湯島賭額 コメディー的な芝居にやたらテンション高くなる最近の福助

今月は演目が多めで昼の部と夜の部の入れ替えが20分ほどとせわしなかったりもしたが、体力、気力共に問題なく観劇できたのは嬉しい誤算だった。来月は蜷川演出の10時間通し「コースト・オブ・ユートピア」も控えているので体力向上、精力の増強に留意しなければ。

2009/07/08

海神別荘 七月大歌舞伎 昼の部


「五重塔」 
腕は良いが不器用でのろまだ馬鹿だと陰口叩かれながら、職人の誇りと意地を賭けて五重塔の建立に挑む大工の勘太郎。支える女房春猿と親方獅童。
気風の良い親方をいなせに演じる獅童は気持ち良さそう。最後にじっと我慢の勘太郎が胸の内を吐き出すと世話女房の苦労も報われ、観客も一気に溜飲を下げるところだが、全体に勘太郎の役どころはもどかしさがつのるばかり。感情移入も難しくて、芸道人情ものとしての味わいは今ひとつ深まらなかったかな。回り舞台を使わない場面転換はよく工夫されていたが、そっちに気を取られて芝居への集中力を削がれたきらいはあった。

「海神別荘」
いつもなら三味線の並ぶ所でハープが奏でられている。金色の珊瑚輝く海神の宮殿は歌舞伎座の舞台とは思えぬエキゾティズムを醸し出している。ファイナルファンタジーで知られた天野喜孝のデザインが衣装から背景に至る舞台の隅々にわたって見事な色彩と質感で再現されている。豪華でありながら海の底らしい清涼感をたたえて、耽美と言うに足る高級感。実に素晴らしい。

海神の王子のコスチュームを身にまとって登場し貴公子然と佇む海老蔵。実にどうも、惚れ惚れするような男ぶりだが、全身のボディーラインが露になる黒タイツ姿は歌舞伎にあるまじき掟破りのコスチューム。この黒タイツを完全に着こなした海老蔵が発するオーラは5割増量されている。優れたコスチュームはオーラを増幅させるのだ。去年の「高野聖」では滝壺の裸があったが、あれは全然格好良くなかった。 片や、白無垢の花嫁玉三郎も当然まぶしく輝いている。エスコートする白龍と黒潮騎士団のビジュアルと動きも洗練されていて楽しめる。

超俗の王子と世俗の価値観にとらわれた花嫁のすれ違いに緊張感が高まっていく山場に向け美しい台詞の応酬の勘所も、この日は玉三郎の生彩が鈍く感じられたが、そこは玉三郎、クライマックスでは呼吸一つで芝居をコントロールし場を盛り上げたのは流石なのだった。
とにかく全編これが歌舞伎かというか、これが歌舞伎だというか、挑戦的でサーヴィス精神溢れる充実した舞台。細部にわたって神経が行き届いて、統一感ある舞台に客席が次第に浸食され、ついには劇場が一体感に包まれる幸せ。とても面白く感動的な芝居を見せてもらった。 幕が下りたら皆さっと席を立つ歌舞伎座も、この素晴らしい舞台にしばし拍手が鳴り止まず、初めての歌舞伎座のカーテンコールも嬉しかった。

7月7日 昼の部 3F 2−19

2009/03/18

三月歌舞伎座 元禄忠臣蔵


1月は玉三郎「鷺娘」の席が取り難かった。2月は何故かそれ以上の難しさで結局行けずじまいだった。今月は忠臣蔵だからなのか、3階席通路脇の2列目1列目という絶好のポジションがすんなりゲットできてラッキーだった。
真山青果作「元禄忠臣蔵」は全10編から成る演目。Wikipediaは本当に便利だ。そのうちの6編から構成された今回の通しは団十郎と幸四郎と仁左衛門の大石競演が呼び物。

松の廊下を逃げ去って行く上野介をチラっと見せて、事件直後の当事者に事の次第を語らせる「江戸城の刃傷」は梅玉の浅野内匠頭にふくよかさと品があり、理不尽な切腹が全編貫く「異議申し立て」感へと転じていくに説得力充分、幕開けに相応しい浅野内匠頭ぶり。

赤穂城の大広間にわらわらと後の四十七士が湧いて出る大モッブシーンにはうわスゲーとビックリしたが、実に地味なのか派手なのか良くわからない。そのあとは動きの無さと台詞の多さについ寝てしまった。

染五郎の直情を余裕であしらう仁左衛門の韜晦。にもかかわらず思わず本気をのぞかせてしまうという「御浜御殿綱豊卿」。染五郎と台詞の応酬がとてもいい。それにつけても色気と器量が横溢する仁左衛門の男っぷりの良さ。強烈な磁力。スケールが大きくてほんとカッコいいんだな仁左衛門。昼夜通して結局これがベストの見応え。

昼の部は江戸城、赤穂城、御浜御殿と舞台は武家の大広間が連続する。大広間ばかりで飽きがくるかと思いきや、それぞれ微妙に異なる意匠結構楽しめた。

夜の部は三者の大石振りを拝見。ドラマ的には「大石最後の一日」の哀切感が印象的。仮名手本忠臣蔵に較べると芝居がかった要素が少なく地味な印象だが、祇園一力の場とか山科閑居の場などのドラマ的な感興というか味わいを十二分に意識している気配が、例えば「御浜御殿綱豊卿」や「最後の1日」などから強く感じられたのも面白かった。

歌舞伎は楽しいが昼夜通しは体に良くない。今回はこれまでになく腰にきた。体がなまっていることもあるが、むしろ丸1日どっぷりと重厚長大に浸かっていたせいと思いたい。

昼の部
江戸城の刃傷  浅野内匠頭 梅 玉  彌十郎  我 當
最後の大評定  大石内蔵助 幸四郎  我 當  魁 春
御浜御殿綱豊卿 徳川綱豊卿 仁左衛門 芝 雀  染五郎         
夜の部
南部坂雪の別れ 大石内蔵助 團十郎  我 當  芝 翫
仙石屋敷    大石内蔵助 仁左衛門 染五郎  梅 玉
大石最後の一日 大石内蔵助 幸四郎  福 助  染五郎

2008/11/17

国立劇場11月「江戸宵闇妖鉤爪」

「江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)」
— 明智小五郎と人間豹 —

江戸川乱歩の歌舞伎化ってどんなものか興味津々の舞台。まずは原作をおさらいからと買い求めた「人間豹」(創元推理文庫)。明智と二十面相の知略を尽くした攻防という路線かと思ったがパノラマ島奇譚系の猟奇エログロに一層の粗暴さを加味したお話。人間豹とはつまり、豹のような容貌と身体能力を持って美女をかどわかし嬲り殺しにするというとんでもない奴。これを明智がやっつける訳だが、終いには明智夫人までがその毒牙にかかろうかという波瀾万丈。豊富に用意された雑誌連載時の挿絵もオリンピック以前の東京の宵闇が妖しく漂うような気分を盛上げはするものの、お話自体、切れ味鋭くもあればご都合主義極まれりというようなこともあり、乱歩自身も巻末で「全体としてはチグハグな」と評している作品ではある。

これをどう歌舞伎として見せるのかと思いきや、全十場で構成された舞台は案外原作をよくなぞっている。なぞっているが、見栄が決まったら素早い場面転換で次の見せ場を用意し、同様に名場面を積み重ねていく。物語より歌舞伎の様式を生かせる見せ場をどう作り出すかを最優先した態度は、この原作に対してこの上なく正しい態度だ。三層重ねで上下動する装置、スッポンは数回、フライングから宙乗りと舞台の機構をフルに活用したサービス精神。この舞台の中心にあって、理屈抜きの楽しさを客席に届けようとする染五郎の心意気が伝わってくる宙乗りが感動的だ。

明智は隠密同心という設定で、岡っ引きから小五郎の旦那、明智の旦那と呼ばれ、銭形平次のような家に住み、ベランメェ口調で長谷川平蔵のようでもあり、小林少年は大きくなったらお奉行になって悪を懲らしめると語ったりと小ネタもなかなか楽しい。原作では人外の哀しい人間豹だが、「朧の森」のライのようなキャラに変えてはいるが、無責任な大人や社会にスポイルされた被害者としたのはインパクトに欠けた。ここは懺悔の値打ちも無い絶対悪の方がよかった。朝日に酷評といっていい劇評が載ったので心配してたのだが、全然OK。楽しく面白い。良い舞台だった。

江戸川乱歩=作「人間豹」より
岩豪友樹子=脚色
九代琴松=演出
(出  演)
幸四郎 高麗蔵 春猿 鐵之助 錦吾 染五郎

2008/08/24

八月納涼大歌舞伎 三部

一、新歌舞伎十八番の内 紅葉狩(もみじがり)
8月15日だが舞台は秋真っ盛り。一面の紅葉なのである。そこに歩み出る橋之助(平維茂)の何とすっきりときれいな立ち姿。コミカルな従者の高麗蔵、亀蔵が一層引き立てる。平維茂に対するお姫様実は鬼女の勘太郎。これが大した頑張りで好感度大。特に肩入れするわけはないが、時に危なげある舞扇のジャグリングにいつの間にかこちらも力が入って、しくじるなよとついハラハラさせられるスリリングな時間。若い人の一生懸命を舞台と客席が一緒になって支え、いつの間にか見守っている。そんな一体感を生んだ勘太郎は敢闘賞。

びっくりしたのは、お姫様の侍女が素晴らしい踊りをみせたこと。子供の様だが上手い上に色っぽくて独特の雰囲気に目が離せなくなった。とても気になって、隣の御婦人に教えを請うたら、最近中村屋の部屋子になったつるまつさん、中学生。とのこと。うーん、これは今後の成長を見守りたい。二部三部を通して一番印象的だった鶴松くん。

更科姫・戸隠山の鬼女 勘太郎  山神 巳之助  従者右源太 高麗蔵  
同 左源太 亀蔵  侍女野菊 鶴松  腰元岩橋 市蔵 局田毎 家橘 
余吾将軍平維茂 橋之助

二、野田版 愛陀姫(あいだひめ)
野田秀樹が歌劇「アイーダ」を アイーダ=愛陀姫 ラダメス=木村駄目助左衛門 アムネリス=濃姫 と言うセンスで歌舞伎に移植。エジプト王=美濃の斎藤道三というダウンサイズに悲恋という本質が損なわれることはないはずだが、(きむラ ダメスけざえもん)という遊びの名に恥じぬ悲恋を見せようってのが野田版の心意気なんだろう。
コメディー部門をリードするインチキ祈祷師コンビ荏原と細毛の扇雀と福助。一見誰だか分からない念入りなメークの福助の、混乱するほどにテンションが高くなっていくインチキ祈祷師ぶりが可笑しい。この優れたコメディエンヌ振りは福助の美しさを裏付けるものだ。
シリアス部門をリードするのは七之助と橋之助に恋敵の勘三郎。三角関係の行き詰まりと打開が悲恋へと盛り上がるところが、三者ともキャラの立ち具合が今ひとつなのは残念。象や、昇天する魂などビニールの使い方が効果的なぐらいに、恋愛の高揚感にも不足気味だったが、歌劇アイーダをパロディーとして遊び倒した野田版。沢山笑わさせてくれて楽しい納涼の夕べとなった。
朝から晩迄大活躍の勘三郎、並の人ではないが流石に喉にも疲れが感じられるようだった。

濃姫 勘三郎  愛陀姫 七之助  駄目助左衛門 橋之助  高橋 松也
鈴木主水之助 勘太郎  多々木斬蔵  亀蔵  斎藤道三 彌十郎  
祈祷師荏原 扇雀  同 細毛 福助  織田信秀 三津五郎  
2F東5-1 8/15

2008/08/22

八月納涼大歌舞伎 二部

第二部
一、つばくろは帰る(つばくろはかえる)
大工文五郎は、仕事のために京へ上る道中、一人旅の少年に見込まれ道連れとなる。少年は母を訪ねるが、祇園の芸妓となった母は会おうとしない。大工の三津五郎と芸妓の福助でみせる人情話。歌舞伎は健気な子役の使い方が本当に上手い。今回は子役が主役級の活躍で、三津五郎と福助の出会いと別れのほろ苦さ。親離れ子離れの切なさに客席の共感も深くなるわけだが、ちょっと福助泣き過ぎの観があって、その分こちらは乗り遅れた。長い割にドラマ的な盛り上がりが薄かったが、京の四季を様々にみせた背景美術の頑張りが楽しめた。

二、大江山酒呑童子(おおえやましゅてんどうじ)
美術を串田和美が担当している。人形を燃やしたり、エンディングのケレンなどに勘三郎とのコンビらしさが感じられた。鬼退治とはいえ、そこはかとなく漂うおっとりユーモラスな雰囲気も合わせて楽しい舞台だった。

酒呑童子 勘三郎  若狭   福 助  なでしこ 七之助  わらび  松 也  
卜部季武 巳之助  碓井貞光 新 悟  公 時  勘太郎  渡辺綱  亀 蔵
平井保昌 橋之助  源頼光  扇 雀
3F1-19 8/15

2008/08/01

七月大歌舞伎 夜の部

一、夜叉ヶ池(やしゃがいけ)
百合:春猿 白雪姫:笑三郎 晃:段治郎 学円:市川右近黒和尚:猿弥 姥:吉弥   

二、高野聖(こうやひじり)
女:玉三郎  宗朝:海老蔵  薬売:市蔵  次郎:尾上右近  親仁:歌 六

昼は海老蔵&玉三郎の義経千本桜が人気沸騰で発売早々チケット完売だったが夜は余裕だ。泉鏡花の2本立てだって充分魅力的だと思うが、同じ役者でも演目によって随分集客に差が出るもんだ。

夜叉ケ池
春猿がちょっとやつれた感じで妖艶。姿形もだが仕上げは声。まるで女声そのもの。のど仏を通過したとは思えぬ声に驚いた。動きの少ない前半は春猿の美しさが見物だが、後半は笑三郎が舞台に命を吹き込んで場を盛上げる。
「恋には我が身の命もいらぬ」
「命のために恋はすてない」
「妬ましいが、羨ましい、おとなしゅうしてあやかろうな」
姫君の泣かせる名台詞
奔放で一途だが素直で優しい白雪姫のきりっとした魅力がメリハリの効いた芝居で立ち上がる。とてもいい。
段治郎は晃の心情に今ひとつ届かない。右近は学円を好演していたがどちらかと言えば、晃の方が適役に見えた。

高野聖
人も通わぬ山奥に迷い込み、煩悩を深め彼岸との境を綱渡りするような状況から辛くも帰還する男の話。この男は潔癖とか清潔とかでは全然ないのだが、僧侶であるからして煩悩深き故に誘惑には一層抗う。この辛抱、我慢なければ怪異も妖艶も滑稽に成り果てる。これは喜劇ではないのだが、海老蔵は血中にアドレナリンが大量分泌するような芝居は得手でも、畏怖、畏敬、不安、焦燥、戦慄などの情動を表現の対象とは意識していないようだ。
川での水浴びを一番の見せ場にもって来たのは良いが、あれはどう見ても混浴の露天風呂。海老蔵のぼんくら振りにつけても、もっと清涼感が欲しかった。それでも海老蔵、玉三郎きれいな役者だ。深山幽谷をどう見せるかに心砕いた装置が楽しめた。

終わってみれば、夜の部は笑三郎のもんだった。

2F1−27 7.28

2008/06/17

六月大歌舞伎 夜の部

一、新薄雪物語(しんうすゆきものがたり)
    序幕 新清水花見の場 二幕目 幸崎邸詮議の場 
     三幕目 園部邸広間の場 同 奥書院合腹の場

花見の華やかさに恋の花開き、悪党は罠を仕掛ける。序幕の前半は福助が艶やかさで客席を魅了し、後半は染五郎の大立ち回りがめっぽう楽しい。二幕目は雰囲気一転して吉右衛門、幸四郎、富十郎が大人のやり取り。三幕目はさらに重苦しく、幕開けから三段逆スライド方式で失われた華やかさに反比例する重厚なドラマ展開。親の情と男の信義の二律背反。辛さ苦しさを絞り出すような笑いに変える芝翫、吉右衛門、幸四郎の大芝居。明日も元気に行かなきゃと、こちらもグッときてしまった。

二、俄獅子(にわかじし)
粋を極めた福助&染五郎の舞踊。6月は昼夜通してこの二人がとにかく素晴らしい。染五郎は著しく柄の違うキャラクターを見事に演じ分けて格好良い。このところ初役の大役が続いた福助は風格も増して、その一挙手一投足には観客を惹き付けてやまない輝きに満ちている。

初めて歌舞伎を見たのがちょうど1年前。それが思いもよらぬ楽しさで、こんな面白いもんをこの歳まで知らずに来たことを後悔しつつ、以来歌舞伎座通いを続けている。一度は愚息達に見せたいと常々思っていたが、今回愚息2号の帰省を機に、家族+義理の母と昼の部を見に行った。花道横の12列目でそれぞれウトウトしたり爆睡したりと様々だったが、歌舞伎らしいビジュアルに面白さがギュッと詰まった濃厚な味わいの新薄雪物語、とても楽しかった。
6.15 1Fー12-6

2008/06/15

六月大歌舞伎 夜の部

一、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら) すし屋
     吉右衛門 芝雀 染五郎 歌六            
二、新古演劇十種の内 身替座禅(みがわりざぜん)
     仁左衛門  錦之助  段四郎
三、生きている小平次(いきているこへいじ)
     幸四郎  染五郎  福助
四、三人形(みつにんぎょう)
     芝雀  錦之助  歌昇

バラエティーに富んだ夜の部。染五郎と芝雀の健闘が印象的。
一は芝雀と染五郎の派手さと歌六、吉之丞が見せる大人の渋さをまとめる吉右衛門の大きさが光った。
二はとても楽しかった。奥方玉の井の段四郎。魅力的なビジュアルは、同じ仁左衛門の、玉三郎との美しいコンビにも負けないインパクトある絵柄。おっかない山の神をニコリともせずに演じながら、格調とユーモアでかわいらしく見せて説得力があった。
三は何といっても福助が凄い。勢いがあり、余裕もたっぷり。どんな状況でもたちどころに場をリードする愛嬌と色気。その磁場のボリュームが凄い。
6.14 3F 2-16

2008/05/15

五月大歌舞伎 夜の部 四谷怪談

初めて見る四谷怪談。
伊衛門への一途な思いに可憐さも滲むかわいいお岩さんから、乳飲み子抱え良薬を毒とも知らず健気に飲み下し、面相崩れて夫の背信に身も世もない嘆きの果てに化けて出る。福助が見せるお岩さんの三段跳びは、情味の豊かさに清新さや溌剌感も、とりわけ悲嘆の表現は若々しい。

悪事を重ねる民谷伊右衛門がそれ程悪党に見えないのも、孫娘溺愛する年寄りのトコトン愚かな有様が、伊右衛門なんかよりよっぽど質が悪く見えるからだったりする。そうなのだ、愚かさは何より罪が深く、しかもかっこわるいのだと、思わず自戒させられる。歌舞伎は実に面白くためになる。色と欲とで次第に深みにはまってゆく伊衛門。吉右衛門が愛嬌と色気を適度にまぶしながら男のだらしなさや屈折を緩急自在に演じて、開き直りにも風格漂い、色悪というのは実にどうもかっこ良いのだ。うらやましい。

身元隠しのために顔面そいだり、大刀の一閃で生首がゴロゴロ転がり出たりと、えぐくも陰惨な場面続出だが、伊右衛門はもとより化けて後のお岩にも、緊迫した場面に息を呑む客席を一気にほぐす滑稽な味付けがとても効果的なのだ。戸板返しや提灯抜けなど舞台ならではの仕掛けも楽しかったが、舞台のお岩さんには、映画などで見知ったようなおどろおどろしい怖さが無いのは意外だった。こちらが摺れただけかも知れないが、鶴屋南北の時代には闇の深さとともにもっと恐ろしいお岩さんだったことだろう。

5.9 2F L8

2008/05/06

團菊祭五月大歌舞伎 夜の部

一、通し狂言 青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)
  
 白浪五人男
「知らざぁ言ってきかせやしょう」耳に馴染んだ台詞を、今回初めて舞台で見たが、いきなり頂点に押し上げるような一瞬の快感に思わず笑い出したくなるような心持ち。名台詞の威力を炸裂させる菊五郎の弁天小僧は、若侍に扮してお姫様をたぶらかし、娘に化けてペテンをかまし、正体ばれたと片肌脱いで、挙げ句に大屋根の上での大立ち回りの大活躍で大盛り上がり。團十郎は悠揚迫らざる受けの芝居で日本駄右衛門の大物振りを好演。若い頃は口跡が気になったが今はそんなこともなく喜ばしい。三津五郎の忠信利平も安定感と存在感で場面を引き締め流石。南郷力丸は結構な狂言回しで多彩に変化し出番も多い役どころだが、左團次は何か物足りない。赤星十三朗の時蔵はいつもの女形の演じ方との違いが見えないのが気になった。

様式美を極めた背景衣装演技に、一大スペクタクルな装置が加わり、荒唐無稽であり得ない展開のお話もまた、まさしく歌舞伎の醍醐味なのだと改めて感じさせる豪華で大胆、エキサイティングな娯楽大作。いつもは花道も見えぬ三階からだが、今日は一階ほぼ中央から一部始終をくまなく眺めて大満足。

二、三升猿曲舞(しかくばしらさるのくせまい)
松緑に奴四人が絡む短めの舞踊で弁天小僧の興奮をしばしクールダウン。楽しさの余韻に包まれて帰路についた。

2008/04/20

四月大歌舞伎 昼の部

3階西8番。一応最前列。と思っていたが下手と花道は全然見えない。舞台が見えない分は客席の反応で動きを想像せよ、というような席。やれやれ。

一、本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)十種香
替え玉たてて生き延び、別人に成り済ましたのに全てバレバレだった殿様を軸に、恋情に身を捩るお姫様と主君の犠牲となった男の妻の心情を対比する。
名作の誉れ高い本朝廿四孝、初めて見たが、今回は余り伝わってくるものが無かった。

二、熊野(ゆや)
豪奢を極めた衣装にしてあの風雅な佇まい。しかもそこはかとなくもの悲しい玉三郎。何処から見ても隙のない仁左衛門。絵に成り過ぎな二人の並のスケールには収まらない絵姿。背景は板ばかりで桜が入ってこない。こりゃ真正面から見れなきゃだめだ。3階西8番、最悪。

三、刺青奇偶(いれずみちょうはん)
勘三郎は惚れた女房の死に際に少しでも楽をさせようと、賭場にでかけてしくじってしまうが、その様子に興味を持った親分が博打の話を持ちかける。
小気味良い台詞回しの勘三郎と、生活感の表出とコメディーセンス抜群の玉三郎。息の合った二人の絡みが随所に展開して楽しめる。しかし圧巻は仁左衛門。場面さらうんだよなぁ。男振りの良さで。夜も昼も四月は結局仁左衛門に尽きるようだ。

2008/04/04

4月大歌舞伎 夜の部 初日

一、将軍江戸を去る(しょうぐんえどをさる)
 薩長に江戸を包囲され、上野寛永寺に謹慎し恭順の意を表していた徳川慶喜(三津五郎)が翻意し、薩長に一矢報いようとする。それを知った山岡鉄太郎(橋之助)は、江戸が火の海となれば民百姓が泣くと慶喜に諫言する。慶喜は江戸を官軍に明け渡し、水戸へと旅立っていく。
深更、未明の出来事で舞台が暗い。内容も重く、理屈っぽいのに大仰な泣きが入って居心地が悪い。三津五郎のきれいな立ち姿やラストシーンの余韻は深いが、それ以外はさっぱりしない。
 
二、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
源義経(玉三郎)武蔵坊弁慶(仁左衛門)富樫左衛門(勘三郎)の豪華顔合わせで、世に名高い勧進帳を初めて見た。なるほど、このような展開であったのか。誠に結構なもの見せてもらいました。始めから終わりまで、何処をとっても見事な絵になっている。衣装、所作、鳴りもの、舞台の全てがデザインしつくされ、美しさを極めている。見ていてすごく気持ちがいい。仁左衛門の弁慶は、一般的な弁慶のイメージからは豪快方面のニュアンスが足らず、発声にも余裕が欲しいが、でもよいではないか、都会的な洗練をまとった良い男振りは大きくて、文句無くかっこいい。富樫に見咎められてからの展開も玉三郎、勘三郎とも自分のしどころはしっかり見せながら弁慶をガッチリ支えている。先月の娘道成寺もそうだったが、長年にわたって磨き抜かれた演し物だけが引き出せる役者の力ってもんがあるように見える。それにしても仁左衛門かっこ良かった。

三、浮かれ心中(うかれしんじゅう)
  中村勘三郎ちゅう乗り相勤め申し候

井上ひさし「手鎖心中」の歌舞伎化作品。
戯作者かぶれの栄次郎(勘三郎)は大店の若旦那だが、周りの心配をよそに世間の注目を集めようと馬鹿なことにうつつを抜かす毎日。今日も受け狙いで、顔を見たこともない長屋の娘おすず(時蔵)と婚礼を挙げようとしている。

胸高に袴をはいて登場した勘三郎の与太郎振りに一瞬藤山寛美がダブった。サービス精神旺盛な栄次郎は、お客を喜ばすためなら如何なる努力も惜しまない勘三郎本人を思わせるキャラクターで、本人も伸びやかに演じているから、楽しい雰囲気が場内に満ちてくる。楽屋落ちや、くすぐりのネタにお客さんも大受けで、役者も更にノリが良くなるという好循環。最後のちゅう乗りまで、目一杯楽しませてくれた。いつも3階席からで、花道はまるで見えないしオペラグラスも欠かせないが、ちゅう乗りは至近で見る事ができた。3階席でも良い事あるんだ。

2008/03/21

三月大歌舞伎 夜の部

墓の周りをさっと清め、花を供え線香をあげ手を合わせ簡潔に墓参をすませる。滞在時間はいつもより短いのにこの充実感は、何より降りしきる冷たい雨のせいだな。お寺さんを後に途中買い物などしながら歌舞伎座夜の部に行く。

一 鈴ヶ森(すずがもり)
暗闇で雲助に襲われた白井権八(芝翫)が雲助達を片っ端から切り倒していく。だんまりで見せる切り合い。スパッとそがれパックリ割れる顔面やら、切り落とされる腕や足、袈裟がけに開く刀傷、貫胴で伸びる上半身など、ユーモアとスプラッターで見せる残忍な場面の奇妙な味わい。 芝翫の白井権八は強いというより可愛いという感じがぴったりなのだが、そうしたこと全てひっくるめて楽しもうとする歌舞伎の懐の深さ、成熟みたいなことも思う。

二、坂田藤十郎喜寿記念
  京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)
坂田藤十郎は凄い。喜寿とは思えぬ若さと輝き。毎晩この華やかな大舞台を一人で背負って立っているのだ。去年の「合邦ヶ辻」とは別人のキャラになりきっているのにもビックリ。終わりに登場した市川團十郎の、目一杯目を剥いた大見得もご祝儀感たっぷりで大変結構。

三、江戸育お祭佐七(えどそだちおまつりさしちり)
  浄瑠璃「道行旅路の花聟」
菊五郎と時蔵は熱演だし時蔵は大好きだが、いかんせんお話に魅力がない。藤十郎の素晴らしい舞台をどうしてこんな陰惨な出し物で挟み込めたものか、喜寿のお祝い気分には無縁の番組編成にちょっと白ける。

今日は大向こうのかけ声も、間の悪い人がやたと声を張り上げて気持ちが悪かった。

2008/03/10

国立劇場 3月歌舞伎鑑賞教室

「歌舞伎へのいざない」と題した鑑賞教室。前半は「鷺娘」のさわりなど織り込みながら歌舞伎の成り立ちや舞台裏を分かりやすく紹介した入門講座。短いなかにも趣向がこらされ、解説の澤村宗之助も良い感じで楽しかった。 後半は阿倍清明が狐から生まれたという伝説を哀切な子別れで見せる「芦屋道満大内鑑 」葛の葉。狐と人間の早変わりや、物の化ならではのテクニックで障子に書をしたためる曲書きなど、ケレン味たっぷりの舞台が期待できる。ってことで、仕事休んで真昼間の芝居見物。

2月の歌舞伎座で見たお軽が軽薄な感じで可愛かった中村芝雀が今度は愛情豊かな狐の母親になりきって、若干可愛いかと思うがほとんど貫禄たっぷり。狐と契った夫の安倍保名には中村種太郎という若手。とても一生懸命やっているのだが、芝雀の貫禄とはまるで釣り合わない軽量ぶり。全然夫婦になんて見えなくて全体のリアリティーも損なわれた。芝雀も、前半はともかく後半、狐の正体現してからの早変わりや曲書きの見せ場には、何かもの足りない感がつきまとう。華やかさなのか、物の怪の妖気か分からないが、サムシングがナッシングでαがマイナスのまま終演。あぁ「葛の葉」ってこんなもんなのか。面白くなかったぞ。うーん、若手の修練を見守るのも一興というような見功者にはなれそうも無いのだなぁ。

解説 ようこそ歌舞伎へ   澤村 宗之助
竹田出雲=作
芦屋道満大内鑑 −葛の葉−
第一場 安倍保名内機屋の場
第二場 同  奥座敷の場

2008/01/23

初春歌舞伎公演「小町村芝居正月」


「こまちむらしばいのしょうがつ」
初演以来、219年ぶりの復活狂言なんだそうだが、昨日今日のにわかファンとしては意味も価値も分からないからはぁと承るしかない。ポスターがいまいちパッとしないし、あまり面白そうな気配も無いのだが、とにかく観に行く。

幕が開くと簡単な状況の説明。皇位継承を巡るトラブルらしい。
先帝の遺言状盗難に宝剣争奪のだんまり。さらに極悪人が印を切ると一気に雲上人となって、たちまちのうちに龍神を封じ込める。なんと、思いもよらぬスペクタキュラーな舞台に吃驚仰天する。なんだよ、凄いよ、凄いですよ。歌舞伎のエッセンスぎっちり詰め込んだような見せ場が次々と展開し、その後もただ口あんぐりでひたすら見とれるばかり。

三幕。時蔵の色気。若さが匂いたつ菊之助の妖しい魅力。いやはや。メリハリの利いた菊五郎と松録の男女四人の舞踊で見せる深草の里の美しいこと。かと思えば世話場に転じた四幕目のとぼけた滑稽味で笑わせ、さらに雪降り積もる真っ赤な鳥居の前で、狐の化かしと大立ち回りを繊細なダイナミズムで繰り広げる。その上大詰めでは松録の「暫」という大盤振る舞い。お正月の舞台にふさわしい明るさ華やかさのうちに、歌舞伎特有のビジュアルの魅力をこれでもかと見せてくれる楽しく美しい舞台に大満足。菊五郎劇団としては去年の「一二夜」より遥かに楽しめた。

国立劇場は劇場の魅力としては歌舞伎座の魅力には遠く及ばないが、出し物はとてもいい。しかし、今回、衣装が歌舞伎座に比べて素人目にも見劣りしたのが気になった。

2008/01/08

壽 初春大歌舞伎 昼の部 歌舞伎座


一、猩々(しょうじょう)
酒に目のない猿が孝行者の酒売りの振る舞い酒に上機嫌となって舞い踊る。華麗な装束で大らかに舞う2匹の猿は、シャープで切れのある美しさの染五郎に柔らかさと包容力の梅玉とで好対照。舞台の華やいだ気分が客席くまなく包み込む。そんな楽しさあふれる舞台。

二、一條大蔵譚 (いちじょうおおくらものがたり)
平家の世にあって、源氏の忠臣鬼次郎(梅玉)は一條大蔵卿(吉右衛門)に打倒平家、源氏旗揚げの覚悟を糾そうと館に入り込むが、そこで目にしたのは世評通りの阿呆振り。
吉右衛門最高!何と素晴らしいばか殿様。無邪気と愛嬌はたっぷりだがそこに嫌みのかけらもないし、大技小技を駆使しても構えの大きさには揺らぎも無い。地味な感じが強かった昔が嘘のような、明るく大きな役者ぶりが冴え渡って、福助、吉乃丞、魁春、段四郎の見せ場もバッチリ決まった。昼の部の白眉と言える面白さ。

三、けいせい浜真砂(けいせいはまのまさご)
   女五右衛門
1月2日にNHKが劇場中継したので何がどうなるか分かっていたが、派手な色彩の山門がせり上がってくる仕掛けのダイナミズムには胸がときめいた。山門の上で雁がくわえて来た巻文を広げ、親の仇にかんざしを投げつける立女形中村雀右衛門は88歳にしてこれが初役だという。
山門の下でかんざしを受ける吉右衛門がその風格で長寿の名優をあっぱれリスペクトし、この間15分にも満たない長さ。ま、それ故に贅沢きわまりない豪華絢爛の一幕。いやいいもん見せてもらった。

歌舞伎では石川五右衛門とは養父明智光秀の仇として秀吉を討とうとする実は朝鮮人。と知っって、あまりの奇想天外さにぶっとんだことがあったが、その五右衛門さえ平気で女に変えてしまう。歌舞伎ってのはこういうことを当たり前のように平気でしてしまう。無茶苦茶だが痛快でもあるというような、成熟、洗練もここに極まれりというような、何だか不思議な世界がある。細かな校則がびっしり決められているのに、そこの生徒は他のどこよりのびのびと自由を謳歌しているような。

四、新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎
いろいろな条件が重なって寝てしまった。

五、お祭り
祭礼に沸く町内のトラブルをいなせに処理して行く鳶の頭團十郎。
楽しい踊りだったが、背景画が先月の粟餅と同じようで気になった。

正月の歌舞伎座はいつにも増して着物姿のご婦人が多く、華やかもひとしお。
新年を寿ぐ気分が満ちていた。席は三階だが二列目で悪くないと思いきや、前には背の高い男性とやたら前のめりになる女性で、視界が妨げられること夥しかったのは誤算。紅白もち入り薄皮たいやきは値上げで1枚200円になっていた。1/6

2007/12/26

国立劇場 12月歌舞伎公演


「それぞれの忠臣蔵」と題して、討ち入る、守る、肩入れする、様々な事情を通してその一日を浮かび上がらせる。

「堀部彌兵衛」
伯父の仇討ちを果たした安兵衛に惚れ込み、懇願の末、養子に迎え入れた堀部彌兵衛。15年後、吉良邸討ち入りの日、一人娘と祝言をあげさせた安兵衛を伴い、彌兵衛は討ち入りへと向かう。
義理だからこそ本物以上に親子らしい。ちぎったからには何があろうと添い遂げる。今の目からば無理とも不条理とも見えるお江戸の価値観、その哀しさ切なさを支える忠の一字と武家の矜持。養子にと安兵衛を口説き落とす壮年時の彌兵衛と、討ち入りを前に老骨にむち打つ彌兵衛。折り目正しいが融通も利忠臣を演じる吉右衛門の温厚実直振りがいいのだなぁ。とても魅力的だ。どれくらい魅力的かというと、吉右衛門が出てない場面が全然面白くないぐらいに魅力的。彌兵衛の妻の吉之丞は好きだ。

「清水一角」
吉良側随一の使い手清水一角。酒乱傾向で集団にも馴染めない。今日も家族の心配をよそに酒浸りで寝込んでしまう。そこに急を告げる太鼓の音。すわ討ち入りと跳ね起きて決戦場へと飛び込んでゆく。
腕が立つ故に鬱屈し、屈折してしまう一角。酒浸りの鬱屈には荒んだような生活感があっても良いが、若さ故の清新さで見せているのはすっきりした染五郎ならでは。立ち回りしながら身支度を整えていく場面は楽しい。ケレン味たっぷりの名場面としては、着付けをもっと鮮やかに処理してくれるといい。

「松浦の太鼓」
吉良邸の隣、松浦の殿様は俳諧仲間の大高源吾が、いつ討ち入りするかと期待を膨らませていた。しかし最近では討ち入りの兆しもなしとすっかり失望を募らせ、奉公にあがっている大高源吾の妹にも辛くあたる毎日だった。そこに山鹿流の陣太鼓が響き渡り太鼓の拍子から討ち入りを知る。討ち入りに加勢をとはやる心で支度をするところに、全てを終えた大高源吾が殿様へと首尾の報告に訪れる。
俳句の宗匠と大高源吾の二人、邂逅する雪の両国橋の美しさと共に良い芝居。
討ち入りを期待して落ち着かない松浦の殿様。子供っぽいというか、我が侭だが気配りもできるお殿様を愛嬌たっぷりに演じる吉右衛門が実に楽しそう。

決意を秘めて誰にも明かさず誤解に耐える大高源吾に、染五郎の清潔感がよく映えた。討ち入り成功し大高源吾の名誉回復がなって、充分なカタルシスが客席を満たす。この先の悲劇は一時棚上げにして、松浦の殿様とこの喜びを共にしようと言う気分に、いつのまにかさせられている。よくできた芝居をさらに輝かせる吉右衛門の、討ち入り当日をこんな楽しく見せて良いのかというくらいに楽しませてくれる芝居ではある。

よく考えられた3本立て、3階3等席でお一人様1500円で観てしまった。これ映画より安い!のである。格安だが大充実の時間が過ごせた。学生の時に知ってれば、絶対外せない価値あるデートコースでしょこれは。

12/23

2007/12/09

十二月大歌舞伎 夜の部 

菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)寺子屋
着いた時には始まっていて、子供達が奥に引っ込むところだった。海老蔵と勘太郎の夫婦が何やら慌ただしそうにしている。筋がよく判らないが、海老蔵の雰囲気の軽さが気になる。福助登場。空気が豊かに膨らむようだ。品があって美しい。さらに勘三郎が現れる。あたりを払う風格は流石の大きさ。筋もようやく飲み込めてきた。忠義の為に子を差し出す切ない話。熊谷陣屋とか先代萩とかと同工異曲だが、父勘三郎の悲嘆、母福助の絶望が人情のツボにヒットする。名作たる所以なのだな。

粟餅(あわもち)
 三津五郎、橋之助の舞踊。橋之助と並ぶと三津五郎の姿形の美しさがよく分かる。軽妙さも洗練の度合いもより増幅されるように見える。別に橋之助のどこが悪いって事は無いのだが。 

ふるあめりかに袖はぬらさじ
 杉村春子の当たり役を玉三郎が引き継いだ形で上演していたものを、今回歌舞伎として演出されたものだという。尊王攘夷と国が割れた幕末、騒然とした空気が満ちる世の中、遊女の自殺がきっかけで時代の最前線に押し上げられた遊郭に繰り広げられる悲喜劇。
玉三郎は時に杉村春子的な芝居を感じさせるが、余裕と貫禄で主役を演じている。年季の入った芸者にふさわしい立ち居振る舞いは本当に美しく、安定感も充分。加えて、ここでも勘三郎は魅力的。存在感の大きさで舞台が引き締まった。光と影のコントラストを強調したセットも新鮮。中村獅童も良かった。

今日は昼過ぎからずっと遊び惚けてしまった。まともな社会人としては早く帰って明日に備えなければと足早に有楽町をめざしたが、10時になろうかという時刻、晴海通りはまだ宵の口、銀座通りの賑わいにも陰りが無い。タフな街なのだ。 
12月5日

2007/11/25

11月吉例顔見世大歌舞伎 夜の部

三階席の最前列の席が取れた。仕事早退けで今日は観劇。開演間際に隣の席に着いた若い女性、パンパンにつまったバッグとダウンジャケットを手に額の汗を拭いている。北海道から来たらしい。ファンは凄い。

一、宮島のだんまり(みやじまのだんまり)
 暗闇の中、宝物を巡って登場人物たちが相互に探り合う。という設定で見得の応酬を繰り広げる「だんまり」。派手な衣装に隈取りの悪党やら公卿やら傾城やら、多彩なキャラが勢揃いしてゆるゆると動き、一斉に見得を切って構図を決め、またゆるゆると動きだし型を変えて見得を切る。いかにも歌舞伎らしい見た目が全ての華麗さで魅了する。観ているだけでほんとに楽しい。
 浮舟太夫(福助)畠山重忠(錦之助)大江広元(歌昇)平清盛(歌六)

二、仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)九段目 山科閑居
子の幸せを思う母の切なさ、女の意地と男の本懐。九段目ってこういうお話だったのか。動きの少ない前半、気がつくと少しばかり寝入ってしまった。前半で辛抱を強いて後半で一気に解放するのが歌舞伎の手口みたいなので、寝るのも様式の範疇としよう。 芝翫の貫禄と菊之助の可憐。凛々しい染五郎に吉右衛門の風格。幸四郎はやはり苦手なのだ。
 大星由良之助(吉右衛門)お石(魁春)大星力弥(染五郎)
 加古川本蔵(幸四郎)戸無瀬(芝翫)小浪(菊之助)

三、新古演劇十種の内 土蜘(つちぐも)
源頼光の病気見舞いに現れた祈祷師が実は蜘蛛の化け物。妖怪退治の大太刀まわりとなる。菊五郎の舞踊劇。禍々しい隈取りの妖怪が放つ糸の美しさ。
  源頼光(富十郎)平井保昌(左團次)胡蝶(菊之助)榊(芝雀)
  太郎(仁左衛門)次郎(梅玉)藤内(東蔵)智籌、土蜘の精(菊五郎)

四、三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)
   大川端庚申塚の場
おお、コクーン歌舞伎とは異なる空間と演出。本来はこうかと納得。染五郎は良いな。
 お嬢(孝太郎)お坊(染五郎)和尚(松緑)。

昼より夜の方が楽しかった。
 
11月22日(木)