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2007/09/25

終決者たち/マイクル・コナリー

パブリックアイ上がりのプライベートアイ、ハードボイルドな探偵としては非の打ち所がないキャリアだ。ボッシュが公から民へと転じた経緯も動機も、21世紀の新たなハードボイルド探偵像を打ち立てるに相応しい魅力あるものだった分、期待も大きかったのだが、やる気が空回りしたボッシュが印象的だった「暗く聖なる夜」や、エレノアとのゴタゴタを引きづりながらポエットとの派手なエンディングに突入していった「天使と罪の街」に共通するのは、私立探偵であることへの戸惑いや苛立から無理を重ねていくボッシュの姿だった。少しも楽しまずかっこ良くもなく、ボッシュは私立探偵が辛そうにみえた。

ボッシュというよりアティカスかと思わせるタイトルの新作。
未解決事件班に配属され、17年前の少女殺害事件の再調査を命じられたボッシュ。3年のブランクに勘も鈍っている。新米であり以前のように自由に動くことは出来ない。制約も不安も少なくないが、それさえ現場復帰の喜びには代え難い。かくして、ボッシュは旧知のキズミンと共に17年前の調書に残る空白を埋めにかかる。

調書を頼りに足で稼ぐ地道な捜査。捜査活動の基本をこなすボッシュを丹念に追いながら、同時に一層のリリシズムでロサンゼルスと言う街の様々な顔を、従来にも増して丁寧に描きだすコナリーの筆が冴えている。作者の大好きなラスベガスもFBIもどんでん返しも封印し、エレノアとのゴタゴタも遠方に押しやって、筋肉質な展開に面白さが加速して行く。夾雑物を排除したストイックな作りにも、作者は小芝居するボッシュというサービスも忘れない。

作者が思っていた以上にボッシュはバッジへの依存度が高かった訳だ。チャンドラーを敬愛する作者にして、自らが考えていた程にはチャンドラー気質ではなかったのだ。だからこの期に及んで、ボッシュを民から公へと復帰させるという、冗談にも程がある前代未聞な展開でシリーズの起死回生を図るという大博打に出て、コナリーは見事な勝ちをおさめた。この独創性的発想と大胆な手口によって、シリーズはハードボイルド探偵史をユニークに更新し、ボッシュは二人といないキャリアを身にまとうことになった訳だ。コナリー実にやるもんなのである。そう、組織の力学に影響されない正義漢、組織にあってこそ輝く男なのだ。

終決者たち THE CLOSERS
著者:マイクル・コナリー
訳者:古沢嘉通
発行:07年9月14日

2006/09/18

天使と罪の街 マイクル・コナリー

コナリーは良い作家で技巧を尽くすが、それほど巧い作家ではないと思っている。どんでん返しもディーバーが華麗ならコナリーは泥臭い。技巧的だがどこかアマチュアっぽい。しかし、それは持ち味であって決して短所ではない。セックスが下手だからってなんだてぇんだ、熱いハートこそがボッシュの生命線なんだし。

だけど、前作でバッジの無いボッシュは、敏腕プロデューサーのオフィスで自分をみすぼらしく感じたり、元同僚の妻への疑念から恥ずべき盗撮を行うなどの情けなさ。危惧すべき兆候が明らかだった。こんなボッシュは嫌だと思いながら読み終えた。長年に渡って共感を深め、無条件に支持してきたから、辛さも寂しさも覚えた。

「天使と罪の街」は、ポエット、マッケイレブ、ボッシュを一挙にやっつけちまおうという魂胆の野心作。マッケイレブが嗅ぎ付けたポエットの痕跡を、ボッシュが追うというプロットを、一人称と三人称の視点移動で構成していくという凝った作り。お馴染みのキャラクターの活躍で上巻過ぎれば面白さ更に加速し、後半はぐいぐい読ませる。コナリー、流石なのだ。

でもね、読んでる時は楽しくても、読み終わった後に感じるのは、どちらかと言えば面白さより。面白くなさ加減なのだ。失望と言う感じが近い。こうなるとコナリー好みの楽屋落ち的オールスターキャストも、却って子供っぽく感じてしまう。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いか。それはともかく、

「ポエット」はとても良くできた作品だったが、今回は犯人からしてとても同一とは思えない動きの悪さ。FBIもポエットも、何をどうしたいのか分からないように見える。ポエットの狙いも行動もよく分からないまま、何故か自分のことで精一杯のボッシュだけが常に1歩先を読んでリードする。

ボッシュは流れる時間の中にいる。チャンドラーのリアリズムを受け継いだ変化するキャラクターだ。警官を取り締まる警官は一体誰が取り締まるんだと、内務監査を目の敵にするパブリック・アイ。そのセンスがボッシュの魅力だ。そんな男が警察を辞め、一体どんなプライベート・アイになったものか。それがシリーズ後半の肝。だと思っていたが、コナリーはあっさりとロス市警に復帰させる。大変結構だ。今時、ボッシュの望むような社会的使命を果たすに、私立探偵はあまりに非力だ。警官に戻るのは必然性がある。警官であり続けるのは二村英爾もしかり。それがチャンドラーの言うリアリズムに合致するってもんだ。

ただ、前作同様このボッシュには首をかしげる。マイクル・コナリー焼きがまわったとは思いたくないが、次作は納得できる展開を是非、迷える読者に与えて欲しいと願っている。

講談社文庫 上771円 下648円 06.8.11 1刷