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2008/05/21

魔都に天使のハンマーを   矢作俊彦

サブタイトルにあるように「傷だらけの天使・その後」なのである。ショーケンと水谷豊のコンビが一世を風靡した人気TVシリーズ。見ていなかったので詳しいことはしらないが、水谷豊の「アニキー」が流行語になったことは覚えている。しかし、矢作のノベライズには驚いた。ノベライズするほど矢作は「傷だらけの天使」が好きだったというのも凄く意外だ。

お話は、30年前水谷豊が死んで以来、世捨て人同然で生きて来たショーケンが、身に覚えのない事件に巻き込まれ、ホームタウンに舞い戻って30年の空白に戸惑いながら真相を究明するという、「ららら科學の子」のリメイクとも焼き直しとも言った内容。
「ららら科學の子」は全共闘運動中に殺人の罪を疑われて中国に逃亡し、文革後を生き延び30年後に帰国した男の目を通し、平成日本の有り様を検証するという話で、姿を現さない親友や消息不明となった妹など配しながら「さらば愛しき人よ」の巧妙な本歌取りの面白さもあるが、その年の三島由紀夫賞を受賞している真面目な作品。
今回、中国帰りの政治犯から元チンピラのホームレスへと主人公の変化はそのまま内容に直結しているが、適度なユーモアで料理された社会批評の鋭さは変わらない。新宿に戻った初老の不良が大人げなく突っ走る勢いの良さは、何処をとってもエンターテインメントに徹した作り。派手なネット犯罪の扱いなどの今日性など「ららら」では描ききれなかった点かもしれない。因縁深めたキャラ設定といい、完成された世界観の中に遊ぶ事を矢作自身がのびのびと楽しんでいるのは凄く意外だが、結果的にノリの良い楽しい作品になっている。

2008/05/20

小説現代特別編集「不良読本」

全575ページ 定価1200円也のソフトカバー。
それにしたって今時「不良読本」ってどうよ、なのである。一体どんな読者を想定したものやら。不良なんてなぁ死語もいいとこ、読本に至っては返す言葉も見当たらない。100歩譲ったとして、読者対象から真っ先に外れるのは現役の不良だろ。元不良にしたって、元という以上は立派に更生してる相手に何を今更、不良読本などと失礼にも程がある。

不良という言葉が生きていた頃、ワルにもなれずもてもせず、不自由でかっこわるい不完全燃焼な青春を昇華できぬまま、ついにリタイアの時を迎えることになった、不肖、私のような団塊世代のスクエァなオヤジの感傷に訴えようかという商魂が見え見えの作りなのである。でなければゲッツ板谷の方が余程気が利いている。チョイワルとかいってオヤジを煽て、これを着ろだのあれを持てだのと格好良さを指南するなんて雑誌が結構売れてしまったという、実にどうもべけんやな時代の、チョイワル気取りに恥ずかしさを上塗りするような本なのだ。両手をポケットに突っ込んだショーケンが苦みばしった顔で正面見据えた表紙など、だから、真っ平ご免、スルーが当然。全くお呼びでないのである。が、しかし、ショーケンの頭上に刻みこまれた「傷だらけの天使リターンズ 魔都に天使のハンマーを 矢作俊彦」の太ゴチは一体何!

悪質なんだよなぁ。傷つくんだよなぁこういうの。全575ページのうち正味300pが矢作の分。他は浅田次郎、椎名誠、花村満月等の功成り名を遂げた元不良達のエッセイやら良く知らない不良作家達の短編が並んでいる。何これ。300pもあるんだから文庫でもノベルズでも矢作で出しゃいいじゃん。何でこんな体裁にする必要があんのさ。結局、矢作読みたいばっかりにこんな抱き合わせつかまされる矢作ファンこそいい面の皮なのである。

2005/12/23

悲劇週間


矢作はよく他の作家(監督)の作を下敷きにするが、もろチャンドラーだった前作「ロング・グッドバイ」では、シチュエーションやキャラの不自然さに結構違和感があった。ただ、昭和への惜別の情は理解できたし、何より「ハ」の字への決別も著されていると思えば、不自然さには情状酌量で応じることができた。

昭和の跡目を相続した平成日本のみっともなさは、矢作もかねてから指摘してきたところだが、ますますもって救い難い社会現象頻発する昨今、憂国の作家は維新へと回天したか、

 明治四十五年、僕は二十歳だった。それがいったいどのような歳であったか誰にも語らせまい。

と始まる新作はポール・二ザンを彷彿とさせる。
なるほど。青春。明治。「アデン・アラビア」懐かしの60年代。ハードボイルド文体に日本語のリズム感による一層の磨きがかけられ、スマートで読み易い。うーん「ハ」の字ではないが「ハ」の字以外の何者でもない匂いもぷんぷんしている。