コナリーは良い作家で技巧を尽くすが、それほど巧い作家ではないと思っている。どんでん返しもディーバーが華麗ならコナリーは泥臭い。技巧的だがどこかアマチュアっぽい。しかし、それは持ち味であって決して短所ではない。セックスが下手だからってなんだてぇんだ、熱いハートこそがボッシュの生命線なんだし。
だけど、前作でバッジの無いボッシュは、敏腕プロデューサーのオフィスで自分をみすぼらしく感じたり、元同僚の妻への疑念から恥ずべき盗撮を行うなどの情けなさ。危惧すべき兆候が明らかだった。こんなボッシュは嫌だと思いながら読み終えた。長年に渡って共感を深め、無条件に支持してきたから、辛さも寂しさも覚えた。
「天使と罪の街」は、ポエット、マッケイレブ、ボッシュを一挙にやっつけちまおうという魂胆の野心作。マッケイレブが嗅ぎ付けたポエットの痕跡を、ボッシュが追うというプロットを、一人称と三人称の視点移動で構成していくという凝った作り。お馴染みのキャラクターの活躍で上巻過ぎれば面白さ更に加速し、後半はぐいぐい読ませる。コナリー、流石なのだ。
でもね、読んでる時は楽しくても、読み終わった後に感じるのは、どちらかと言えば面白さより。面白くなさ加減なのだ。失望と言う感じが近い。こうなるとコナリー好みの楽屋落ち的オールスターキャストも、却って子供っぽく感じてしまう。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いか。それはともかく、
「ポエット」はとても良くできた作品だったが、今回は犯人からしてとても同一とは思えない動きの悪さ。FBIもポエットも、何をどうしたいのか分からないように見える。ポエットの狙いも行動もよく分からないまま、何故か自分のことで精一杯のボッシュだけが常に1歩先を読んでリードする。
ボッシュは流れる時間の中にいる。チャンドラーのリアリズムを受け継いだ変化するキャラクターだ。警官を取り締まる警官は一体誰が取り締まるんだと、内務監査を目の敵にするパブリック・アイ。そのセンスがボッシュの魅力だ。そんな男が警察を辞め、一体どんなプライベート・アイになったものか。それがシリーズ後半の肝。だと思っていたが、コナリーはあっさりとロス市警に復帰させる。大変結構だ。今時、ボッシュの望むような社会的使命を果たすに、私立探偵はあまりに非力だ。警官に戻るのは必然性がある。警官であり続けるのは二村英爾もしかり。それがチャンドラーの言うリアリズムに合致するってもんだ。
ただ、前作同様このボッシュには首をかしげる。マイクル・コナリー焼きがまわったとは思いたくないが、次作は納得できる展開を是非、迷える読者に与えて欲しいと願っている。
講談社文庫 上771円 下648円 06.8.11 1刷