2006/10/02

非道、行ずべからず 松井今朝子


文化六年巳歳の元日、年頭恒例の舞台も無事済んだその夜、江戸随一の芝居小屋中村座は、隣町から押し寄せてきた火の手に焼け落ちた。翌朝、焼け跡に立った太夫元十一代目中村勘三郎が今後の方策を思案する間もなく、焼け残りの行李から男の他殺体が発見される。

北町同心と同心見習いの二人、ベテランと新人コンビが挑む江戸最大の芝居小屋に繰り広げられる連続殺人事件。今に続く歌舞伎の、江戸時代の名人上手はどんな舞台を作っていたのか、芝居小屋はどう運営されていたのかなど、芸道ものバックステージ物としての興味深い蘊蓄、エピソードをミステリの流れに巧く溶け込ませている。

非道、行ずべからずとは、斯道を全うしようと思うなら、他の事しておっつくもんじゃないよ、ってことらしい。芸人たるもの芸に生きるのが本分。人の道より芸の道ってのは当然のこと。という世界の面白さが、多彩な、味わい深いキャラの魅力とともに描き込まれて、深みと奥行き、懐の深さを感じさせる面白さ。

作者は京都の出身で長く松竹で歌舞伎の興行に携わっていたらしい。ベタつかないけど優しさを感じさせる人間の描き方がクール。きりっとしてメリハリも効いた文章も魅力的だ。直木賞候補作ということだが、落選というより、直木賞とれる程つまらなくないというところかな。全作読む。

05年4月25日 1刷  集英社文庫 838円