2006/10/02

国家の品格 藤原正彦

世界的に見て、先進諸国は軒並み社会的荒廃を招いている。それは西欧的合理主義、理論的思考の限界に他ならないのじゃないか。戦後、日本も合理主義、市場原理で突っ走ってきたが、論理的な整合など前提次第でどのようにも変わるものだし、民主主義が結果の正しさなど保証するわけもない。国際社会に対応できる人材育成のために小学校から英語を教えようという、これも立派な理屈だが、果たしてそんなことから世界に通用する国際人が育てられるものだろうか。理屈に頼っては躾だってままならないというものだ。

ではどうすれば良いか。形を尊び豊かな情緒を育んできた日本の文化伝統の中にその答えはある。日本の古来の価値観、世界観の復権こそ、いまや国を挙げて取り組むべき課題ではないか、より具体的には新渡戸稲造の言う「武士道」の精神に学ぶべきはある。もとより、日本人は敗者への共感、弱者へのいたわり、惻隠の情を以て世に対してきた。そうした行き方を取り戻すことが、国家としての品格をより高めていくことに通じるのである。

といった論が、著者が数学者として内外で生活した経験の中から、豊富な事例、エピソードを交えながら展開される。平易な語り口に適度なユーモア。口当たりが良くて分かりやすい。面白くて説得力があるしベストセラーも当然だと思った。

著者の主張は尤もだと思う。異論も反論も特にない。ましてや、もう何十年にわたり「卑しい街を行く高貴な騎士」だと作者が認ずる探偵をアイドルとしてきた身であるから、武士道だろうが騎士道だろうがさしたる抵抗はないのだが、私立探偵が騎士気取りで街をほっつき歩く分にはまだしも、国家のあり方を論ずるのに武士道持ってこられてもなぁーって気は、どうしてもするのだった。

奥付きの著者紹介に、新田次郎と藤原ていの次男とあって、これにはびっくりした。

新潮新書 06.4.10 23刷