2006/10/14

ブラック・ダリア

カメラは移動するが、デ・パルマ的なトリッキーさは影をひそめ、随分抑制されている。それは内容についてもいえること で、ミステリーとしても、人間ドラマとしても怖さはまったく感じられない。原作を大切に扱った脚本ではあるが、本質的なところでエルロイのエネルギー、狂 気、怒り、不安、希望などとクロスすることはなかった。

原作を抜きにしても、登場人物達が抱え込んだ物語や秘密は過剰で、彼らの行動と動機とストーリーとの関わり方が重い。 というか、どの人物の行動もきちんと理に落ち過ぎ、キャラクターは人間的な奥行きや膨らみを欠いている。

スカーレット・ヨハンソンは美しいがただそれだけ。それだけで充分という見方もあるが、この作品については全く不十分。ヒラリー・スワンクの役所 は脚本段階での掘り下げが足りないが、それ以上に成金のゴージャス感にも乏しく、演技的にはともかくビジュアルとしてミスキャストだろう。ジョシュ・ハー トネットも良くやっているが終盤に成る程説得力は乏しかった。

なにより、ブラックダリアというシンボリックな死体をメインに据えながら、「ブラックダリア」に囚われていく男達の狂気や妄執に説得力を与えられ なかったことは致命的だ。ミステリを越えたミステリといえる原作を、デ・パルマはごく普通のミステリー映画にしてみせただけともいえる。

原題:The Black Dahlia
監督:ブライアン・デ・パルマ
製作:アート・リンソン
原作:ジェームズ・エルロイ
脚色:ジョシュ・フリードマン
撮影:ビルモス・ジグモンド
音楽:マーク・アイシャム
出演:ジョシュ・ハートネット、アーロン・エッカート、スカーレット・ヨハンソン、ヒラリー・スワンク、ミア・カーシュナー
2006年アメリカ映画/2時間1分
配給:東宝東和