主人公が余命半年というところから始まった「木更津キャッツアイ」。創意と閃きに満ちたシリーズは視聴率こそ低かったが、コアなファンを獲得し、大日方文世、古田新太、桜井翔、阿部サダヲ、気志団などの知名度を一気に高めた。TV終了後、映画「日本シリーズ」が制作されたが、これは狂騒的なギャグが空回りするばかりの悪夢のような作品だった。あれから3年、ワールドシリーズと銘打った完結編ではあるが、「日本シリーズ」 の時のような痛い目には遭いたくないし、今更感ってのもある。正直、気乗りはしないが、今までの付き合いからスルーもできず、初日を逃したら行けなくなるだろうやっぱ。ってことで硫黄島を後回しにした。
ぶっさんの死後、別々の道を歩み始めたキャッツ達。市役所の役人となって今は一人木更津に残ったバンビに、ある日、天からの啓示が訪れる。「それをつくれば彼がやってくる」。その声に導かれ、バンビはぶっさんの3回忌に合わせてキャッツを招集する。
野球で結ばれた男の甦りとなれば当然「フィールド・オブ・ドリームス」だろう。だれも文句はいえなかろう、という開き直りのような設定だが、クドカンはキャッツの誰も肝心の「フィールド・オブ・ドリームス」を観たことがないという変化球でコーナーを突いてくる。「日本シリーズ」的悪ふざけは影を潜め、変化球もまあコントロールされている。
夢も希望も傲慢も挫折も不安も怒りも、理解し合える仲間はあっても、乗り越えるのは自分だ。プラスとマイナスはいつもひとかたまりでやってくる。分裂と再会を通して成長していくキャッツの姿が切ない。同じものを観ているようで微妙にずれている人間の可笑しさ哀しさを描くクドカンの目は優しい。優しいが含羞の人でもあるからウエットに盛り上げてもことごとくギャグでひっくり返す。泣かされて笑わされて、よく揺さぶられた。シリーズの終了からこれまでに流れた時間が、登場人物の変化としてリアルに現れている。特に、キャッツの変化は成長その もの青春そのものだから、彼らの「ばいばいを言う」というテーマが、例えば塚本高史の迫真の演技から切実さと説得力とをもって立ち上がってくる。 そして人生は続くのだ。役者がみんな素晴らしい。「ワールドシリーズ」はTVシリーズを楽しみ、流れる時間を共有した者には涙なしには観られない作品になっている。
監督:金子文紀
脚本:宮藤官九郎
プロデューサー:磯山晶
音楽:仲西匡
出演:岡田准一、櫻井翔、佐藤隆太、酒井若菜、塚本高史、岡田義徳、山口智充 阿部サダヲ
2006年日本映画/2時間11分
配給:アスミック・エース