
激烈を極めた硫黄島上陸。艦砲射撃で形が変わってしまったというすり鉢山の攻防。山頂に星条旗を掲げた兵士達の写真から政治的に生みだされたヒーロー達。彼らがかり出された新たな戦場と、思いも寄らぬ闘いの日々。
「ミリオンダラーベイビー」の後、イーストウッドが硫黄島を撮るとの記事を目にした時、戦争映画、しかも硫黄島という素材は年齢、体力的な限界を 超えているだろうと危うく思った。そもそも、ワーナーはイーストウッド作品の廉価DVDをやたらリリースするなど、以前から冷たいし、金の工面からして厳 しいのではないかと半信半疑だった。
しかし、そんな勘ぐりとは別の次元にこの作品は出来上がっている。パワフルで苛烈な戦闘シーンは「プライベート・ライアン」以降のもの。「パール ハーバー」以降のリアルを極めたCG映像。クリント・イーストウッドがこれほどCGを駆使した、大がかりな作品に挑むことを一体誰が想像しただろう。
イーストウッドをこの作品に駆り立てものの一つに、好戦的なブッシュの政治姿勢に対する危惧や懸念を見て取ることは容易だ。その意味では、ブッシュには、この作品の制作者として名前がクレジットされる資格はありそうだ。だが、だとしてもそれは作品のほんの一部にすぎない。
硫黄島とそこから生まれた悲劇を追うカメラから、反戦メッセージをくみ取るのは容易だが、あらゆる主義主張、善悪の概念を越えて、クリント・イー ストウッドの眼差しは深い。だから、例えば官僚への批判はあっても安易な断罪はない。全てを観てきた男の諦観か、いや、その曇らぬ眼差しは、あるいは神の 視点に最も近づいた人間のものかもしれない。長生きしなければ見えてこないものは確かにあるのだ。
無駄のない語り口。行き届いて隙のない絵造りで戦争を描き、人間とは何かをジワリと浮かび上がらせる。世界の有り様をあるがままに見つめ、あるが ままに描き出すイーストウッドの高貴なる魂。誰も届かぬ高みで、誰よりもハードボイルドな精神の輝きを示すイーストウッドという驚異。
原題:Flags of Our Fathers
監督・製作・音楽:クリント・イーストウッド
製作:スティーブン・スピルバーグ、ロバート・ローレンツ
脚本:ポール・ハギス、ウィリアム・ブロイレス・Jr.
原作:ジェームズ・ブラッドリー、ロン・パワーズ
撮影:トム・スターン
出演:ライアン・フィリップ、アダム・ビーチ、ジェシー・ブラッ ドフォード、バリー・ペッパー、ジェイミー・ベル
2006年アメリカ映画/2時間12分
配給:ワーナー・ブラザース映画