
冷血を読んだのははるか昔だ。細かなことは覚えていないが、強烈な読書体験だったことはしっかり記憶に残っている。怖さと同時に、そのスタイルが格好良かったことも。
その後、冷血をしのぐような事件は枚挙にいとまがない。そうした時代だ。「冷血」が無ければ生まれなかっただろう作品もその後は多いが、冷血を凌ぐような作品はない。文学上の、時代という意味でもエポックを画した冷血とは、どのようにして書かれたか。
フィリップ・シーモア・ホフマンが製作者だったとはエンドクレジットを見るまで知らなかった。嫌みな程のカポーティな演技も、他からのオファーで なく自作自演だったかと知ればシーモア・ホフマンの自信、野心の程も偲ばれる。しかし傲慢だろうと嫌味だろうと、とにかく自分で作ってアカデミー主演男優 賞を取っちまったんだから凄い。何より素晴らしい作品だった。実に大したもんなのである。
で、アカデミー賞を始め各主演男優賞総なめではあるが、特徴の多いキャラで演技的にはやりやすかったのではなかろうか。むしろ対話がメインの地味 な展開を秩序よくまとめた脚本と、それを冴えた絵作りで見せきった演出の安定感が印象的。聞けば初監督作品だという。そうとは思えぬ風格が見事。カンザス の冬枯れの大地を望遠するカメラの美しさから音楽、衣装、美術と画面の隅々に至るまで、入念な神経が行き届き刺激のレベルが高い。
シーモア・ホフマン入魂の粘着質なカポーティーが硬質な空気の中を徘徊する。その気色の悪さを魅力に変えたのはキャサリン・キーナーの功績。優しさと聡明さに溢れた女性を惚れ惚れするようなクールさで演じ魅力的だった。
監督:ベネット・ミラー
出演フィリップ・シーモア・ホフマン 、キャサリン・キーナー
上映時間 114分