「江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)」
— 明智小五郎と人間豹 —
江戸川乱歩の歌舞伎化ってどんなものか興味津々の舞台。まずは原作をおさらいからと買い求めた「人間豹」(創元推理文庫)。明智と二十面相の知略を尽くした攻防という路線かと思ったがパノラマ島奇譚系の猟奇エログロに一層の粗暴さを加味したお話。人間豹とはつまり、豹のような容貌と身体能力を持って美女をかどわかし嬲り殺しにするというとんでもない奴。これを明智がやっつける訳だが、終いには明智夫人までがその毒牙にかかろうかという波瀾万丈。豊富に用意された雑誌連載時の挿絵もオリンピック以前の東京の宵闇が妖しく漂うような気分を盛上げはするものの、お話自体、切れ味鋭くもあればご都合主義極まれりというようなこともあり、乱歩自身も巻末で「全体としてはチグハグな」と評している作品ではある。
これをどう歌舞伎として見せるのかと思いきや、全十場で構成された舞台は案外原作をよくなぞっている。なぞっているが、見栄が決まったら素早い場面転換で次の見せ場を用意し、同様に名場面を積み重ねていく。物語より歌舞伎の様式を生かせる見せ場をどう作り出すかを最優先した態度は、この原作に対してこの上なく正しい態度だ。三層重ねで上下動する装置、スッポンは数回、フライングから宙乗りと舞台の機構をフルに活用したサービス精神。この舞台の中心にあって、理屈抜きの楽しさを客席に届けようとする染五郎の心意気が伝わってくる宙乗りが感動的だ。
明智は隠密同心という設定で、岡っ引きから小五郎の旦那、明智の旦那と呼ばれ、銭形平次のような家に住み、ベランメェ口調で長谷川平蔵のようでもあり、小林少年は大きくなったらお奉行になって悪を懲らしめると語ったりと小ネタもなかなか楽しい。原作では人外の哀しい人間豹だが、「朧の森」のライのようなキャラに変えてはいるが、無責任な大人や社会にスポイルされた被害者としたのはインパクトに欠けた。ここは懺悔の値打ちも無い絶対悪の方がよかった。朝日に酷評といっていい劇評が載ったので心配してたのだが、全然OK。楽しく面白い。良い舞台だった。
江戸川乱歩=作「人間豹」より
岩豪友樹子=脚色
九代琴松=演出
(出 演)
幸四郎 高麗蔵 春猿 鐵之助 錦吾 染五郎