2008/11/15

レッド・ボイス

ロサンゼルスの南、オレンジ郡を舞台に優れたミステリを発表して来たT・Jパーカー、今度は更に南下してメキシコ国境に接し、全米一美しいといわれるサンディエゴを舞台に、ビルから落ちたこことをきっかけに共感覚が備わってしまった刑事を主人公に据えた新作。

原題のThe Fallenに対し邦題はレッド・ボイス。で、共感覚ってのは何かというと、文字や音に色を感じたり、形に味を感じたりする特殊な知覚能力のことで、例えばマイルス・デイビスやスティービー・ワンダーは共感覚者として有名であり、カンディンスキーやナボコフなどは共感覚の持ち主だった可能性が指摘されている。とWikiにあった。こんな事がたちどころに分かる。本当、凄い世の中になったもんだ。

嘘は赤い四角形、恐れは黄色い三角形として見えてしまう殺人課刑事。人の言葉の真意を色の違いとして知覚できるのは職業的に大きな利点でも、プライベートではコミュニケーションの不全を招く。この二律背反に絡めとられ、大掛かりな不正をあぶり出す一方で共感覚のために夫婦関係の維持に苦慮する主人公の姿がじっくりと描かれる。静謐さのうちに情動を高め、エモーショナルな陶酔へと導くパーカーならではの味わい。

パーカー作品共通の、ミステリーであると同時に、喪失感の深さと高揚感で酔わせる恋愛小説としての魅力も健在。しかし、共感覚がミステリーとしての展開にそれほどの影響を及ぼす訳ではない点にはパンチ力の不足を感じる。
真っ赤な嘘に引っ掛けた邦題はベタだが、T・J・パーカーの作品群にすっと収まる統一感もあり好感を持った。

T・ジェファーソン・パーカー
訳 七搦 理美子
08.07 初版
早川書房 
¥2100