一、将軍江戸を去る(しょうぐんえどをさる)
薩長に江戸を包囲され、上野寛永寺に謹慎し恭順の意を表していた徳川慶喜(三津五郎)が翻意し、薩長に一矢報いようとする。それを知った山岡鉄太郎(橋之助)は、江戸が火の海となれば民百姓が泣くと慶喜に諫言する。慶喜は江戸を官軍に明け渡し、水戸へと旅立っていく。
深更、未明の出来事で舞台が暗い。内容も重く、理屈っぽいのに大仰な泣きが入って居心地が悪い。三津五郎のきれいな立ち姿やラストシーンの余韻は深いが、それ以外はさっぱりしない。
二、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
源義経(玉三郎)武蔵坊弁慶(仁左衛門)富樫左衛門(勘三郎)の豪華顔合わせで、世に名高い勧進帳を初めて見た。なるほど、このような展開であったのか。誠に結構なもの見せてもらいました。始めから終わりまで、何処をとっても見事な絵になっている。衣装、所作、鳴りもの、舞台の全てがデザインしつくされ、美しさを極めている。見ていてすごく気持ちがいい。仁左衛門の弁慶は、一般的な弁慶のイメージからは豪快方面のニュアンスが足らず、発声にも余裕が欲しいが、でもよいではないか、都会的な洗練をまとった良い男振りは大きくて、文句無くかっこいい。富樫に見咎められてからの展開も玉三郎、勘三郎とも自分のしどころはしっかり見せながら弁慶をガッチリ支えている。先月の娘道成寺もそうだったが、長年にわたって磨き抜かれた演し物だけが引き出せる役者の力ってもんがあるように見える。それにしても仁左衛門かっこ良かった。
三、浮かれ心中(うかれしんじゅう)
中村勘三郎ちゅう乗り相勤め申し候
井上ひさし「手鎖心中」の歌舞伎化作品。
戯作者かぶれの栄次郎(勘三郎)は大店の若旦那だが、周りの心配をよそに世間の注目を集めようと馬鹿なことにうつつを抜かす毎日。今日も受け狙いで、顔を見たこともない長屋の娘おすず(時蔵)と婚礼を挙げようとしている。
胸高に袴をはいて登場した勘三郎の与太郎振りに一瞬藤山寛美がダブった。サービス精神旺盛な栄次郎は、お客を喜ばすためなら如何なる努力も惜しまない勘三郎本人を思わせるキャラクターで、本人も伸びやかに演じているから、楽しい雰囲気が場内に満ちてくる。楽屋落ちや、くすぐりのネタにお客さんも大受けで、役者も更にノリが良くなるという好循環。最後のちゅう乗りまで、目一杯楽しませてくれた。いつも3階席からで、花道はまるで見えないしオペラグラスも欠かせないが、ちゅう乗りは至近で見る事ができた。3階席でも良い事あるんだ。