2008/04/25

ニシノユキヒコの恋と冒険

ニシノユキヒコの女性遍歴を追った連作短編集。
という体裁だが、それでは中身とかけ離れすぎ。様々な女性からいたぶられるニシノユキヒコの肖像、正確とは言えないがこの方が近い。川上弘美は凄い。異界へと開かれた回路を自由に往来し、この世ならざるものと交感する。ほとんどの場合、潜在的か露呈しているかの違いはあるが、それは本質的な怖さをはらんでいる。

ニシノユキヒコはきれいな男である。優しくて自分勝手。繊細で大胆。パワフルでどん欲。自分が欲しかったのはこれだと女性に思わせるような男。だが永遠の愛は誓えない。それゆえ別れは常に女性から。なので女性遍歴を重ねるように見えるが、必ずしもニシノユキヒコの望んだことではない。もててもニシノは可哀相な男なのである。もててももてなくても、結局男は可哀相なのである。女は怖いのである。誰でも知ってることなのである。

女の怖さはいろいろに描かれるが、こんなに静かに積み上げられた優しい残酷の切なく美しい形に、川上弘美の凄さも怖さもしっかり刻み込まれている。そんな、ニシノユキヒコの愛の姿を語り継ぐ女性達の独白を読み進むうちに、これは川上弘美の「裏・源氏物語」だったかと思えるほど、二シノユキヒコが光源氏のように見えて来る。

ニシノユキヒコの恋と冒険
川上弘美
平成18年 8月1日 発行
新潮文庫
438円+税