初めて見る四谷怪談。
伊衛門への一途な思いに可憐さも滲むかわいいお岩さんから、乳飲み子抱え良薬を毒とも知らず健気に飲み下し、面相崩れて夫の背信に身も世もない嘆きの果てに化けて出る。福助が見せるお岩さんの三段跳びは、情味の豊かさに清新さや溌剌感も、とりわけ悲嘆の表現は若々しい。
悪事を重ねる民谷伊右衛門がそれ程悪党に見えないのも、孫娘溺愛する年寄りのトコトン愚かな有様が、伊右衛門なんかよりよっぽど質が悪く見えるからだったりする。そうなのだ、愚かさは何より罪が深く、しかもかっこわるいのだと、思わず自戒させられる。歌舞伎は実に面白くためになる。色と欲とで次第に深みにはまってゆく伊衛門。吉右衛門が愛嬌と色気を適度にまぶしながら男のだらしなさや屈折を緩急自在に演じて、開き直りにも風格漂い、色悪というのは実にどうもかっこ良いのだ。うらやましい。
身元隠しのために顔面そいだり、大刀の一閃で生首がゴロゴロ転がり出たりと、えぐくも陰惨な場面続出だが、伊右衛門はもとより化けて後のお岩にも、緊迫した場面に息を呑む客席を一気にほぐす滑稽な味付けがとても効果的なのだ。戸板返しや提灯抜けなど舞台ならではの仕掛けも楽しかったが、舞台のお岩さんには、映画などで見知ったようなおどろおどろしい怖さが無いのは意外だった。こちらが摺れただけかも知れないが、鶴屋南北の時代には闇の深さとともにもっと恐ろしいお岩さんだったことだろう。
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