2006/08/11

こころ

昔、「夏への扉」なんて名作を読んだせいか、夏にはSFが読みたくなる。面白そうなSFを物色するつもりで書店に入ったが、夏休みのキャンペーンで平積みになっていた「こころ」に、「我が輩は主婦である」の楽しかった記憶から思わず手が伸びてしまった。そうだ、これ読んでないし、夏の課題図書にぴったり。価格的にも嬉しい。ちょっと比較したら集英社320円、角川340円、新潮380円。読みやすそうで、何より安い集英社文庫をレジに持って行く。

夏休みの鎌倉海岸、避暑地の退屈をもてあました私の目に映った一人の男。それが先生との出会いだった。高潔だがどこか冷ややかな人柄、不可解な生き方、謎めいた先生と過ごした豊穣の時。不意に訪れる別れと全てを明らかにする手紙。不幸の上に幸せを成り立たせてしまう人間の罪と罰。

そうか、こういうお話だったのか。もっと重苦しくて暗いものと思ってたが、明晰な文章の平明なお話だった。倫理的道徳的なテーマ性からも、若い時により切実な共感をもって読めたら一番だろう。ここに描かれた板挟みには普遍性があると思う一方で、今の時代、若い人達がどの程度のリアルさを実感するものなんだろうかとも思う。

何より、「こころ」に登場する女性達は今日的な説得力に欠けた存在に映らないか。このあたり、今の女性から見てどうなんだろうか。漱石の描く女性達はあまりに封建的な女性観の範囲に納まっている。漱石って、女の人が巧く描けない人だったのね。いやこれは貶してる訳じゃなく、好感している訳ですけど。

我が輩を主婦に乗り移らせたクドカンはいろんな意味で深いなと改めて思った。