2007/06/23

星新一 1001話を作った人 最相葉月

日本SFの黎明をリードし、ショートショートの第一人者として名を馳せた星新一。母方の祖父は解剖学の権威小金井良精、祖母は森鴎外の妹、喜美子。父、一は一代で興した星製薬を国家的事業に育て上げた立志伝中の人物。

血統の良さと複雑な生育環境。国策に左右される父親の事業の浮沈。多感な青春時代の胸塞ぐ出来事。相続。事業からの撤退。やがて作家として認められ、日本SFの黎明を築き上げていく。戦中戦後から昭和平成へと生き抜いた男の足跡が、綿密な考証と冷静知的な筆致で描かれる。

SFとしてはクールでスマートな星より、もう一方の雄小松左京のスケール、ストーリー性が好みだったが、星新一は昔沢山読んだ。ショート・ショートも面白かったが、それより、正続「進化した猿たち」など、ミステリマガジンのページを真っ先に開いて読んだものだった。「祖父・小金井良精の記」も発売即買って読んだ記憶がある。作品から、真鍋博の挿絵もだが、星新一には理知的で淡白な人物像をイメージしていた。何れにしてもはるか昔のこと。自分にとって完全に過去の人として記憶の中に整理していた作家だ。

だが、ここに描かれた星新一は、初めて見る様に新鮮だ。星新一ってこんな人だったのか。何も知らなかったということが良くわかった。著者が星新一に寄せる共感の深さがよく顕われた記述。節度ある潔い文章は気持よく、分かりやすく、読みやすく、作者の気持がこちらの胸にストンストンと届いてきた。

「宇宙塵」「SFマガジン」と本格的なSFの勃興期に何がどのように進行していったかを説き起こしていく中盤以降のスリリングな展開は、資料的にもだが、あの頃を知る人には読み物として堪えられない面白さに溢れている。1001編のショート・ショートを作るという、前人未到とも空前絶後ともいえる偉業を達成した希有な作家と、その時代を鮮やかに描き、やがて静かな感動へ導いてくれる。


新潮社 07.03.30 初版
    07.05.20 五刷
    2300円