2007/06/10

三人吉三  シアターコクーン


初めて見る歌舞伎がコクーン歌舞伎というのは変則的とは思うが、成り行きまかせはいつものこと。敷居の高さ、木戸銭の高さに身構えてしまう体質も幾つになってもなおらない。

それより相手の正体見極めとこうと予習にいそしんだ。テキストは「マンガ歌舞伎入門 下巻」歌舞伎十八番の演目の物語をマンガで紹介し、見所、ポイントが解説されたガイド本。以前、松井今朝子の全著作収集を目論んだ際に購入した古本が役に立つ。

河竹黙阿弥作「三人吉三」。思いもかけない因果の糸に結ばれた登場人物達。節分の夜をきっかけに20年来の糸のもつれが一挙に顕在化し、報いの連鎖が結実していくという誠に陰惨な話。

臆面なさ過ぎな設定と展開という突っ込みはさておき、ダイナミックと言えばダイナミックな作劇は七五調の名台詞、構成の緻密さも相俟って、「江戸期を通しての戯曲のある種の到達点を示している」と解説にある。ふーん、そうなんだ。様式のさせる技とはいえ、それにしても濃厚すぎる親の因果と子の報いではある。

シアターコクーン1階は椅子が取っ払われて桟敷もどきの平場席になっている。場内は飲食禁止も解禁。こちらも早速弁当、団子、飲み物購入。いやぁ、飲み食いには芝居見物の楽しさも倍加するってもんだ。しかし3時間以上の長丁場、平場座布団1枚の見物は足腰に負担がきつく、椅子席がまことにうらやましい。

さて、初見の歌舞伎は1から10まで物珍しく面白く、時間の経つも随分早く感じられた。何より、役者の器量、所作の美しさに目を奪われるというか、勘三郎の愛嬌と風格、福助、七之助の女振りの美しさ、橋之助、勘太郎の端正な佇まい、亀蔵のユーモアと面構えなど印象的だった。歌舞伎流の色彩と形、動きが洗練を極めているのも感動的だった。映像や写真ではついぞ分からない、生の魅力と迫力というものを体感し実感できたのは何よりの収穫だった。

所作の一つ一つ、リアリズムからは不自然とか滑稽とかしか言いようのない見栄や六法にしても、全ては、絵になることを目指して計算を尽くした上に成立し続けている様式、これこそが歌舞伎流のリアリズムなのだと納得がいった。

何処を切っても、見事に絵になっているようにしつらえた舞台の有り様。サービス精神とも矜持の現れとも取れるがどっちにしても気持のよさに変わりはない。こりゃすごいや。歌舞伎が昔に変わらぬ人気を集めているのさえ頷けるような心持ちになっている。

悪党が入り乱れ、百両の金が象徴する因果の糸が絞り込まれて、悪には悪のいい分もあるが、輪廻の歯車がぐるりと動いて、どうすることも敵わぬ悲劇へとなだれ込んでいく。破滅へ向かう三人吉三の、すべてを浄化するように、真っ白な雪が降りつのる。

歌舞伎本来の演出が分からないのがしゃくなのだが、ここは串田和美、中村勘三郎のコンビ面目躍如の弾けっぷりではないか、降りつのる雪の量が半端でない。その物量には観客のカタルシスを一層高める効果もある。いってみれば、雪は登場人物を浄化しつつ、大胆過剰な量によって舞台と客席を一括りにして昇華させてもいるようだ。それにしたってただ事でない雪まみれの演出には笑わせられたが、あっぱれな幕切れには違いない。

三人吉三(さんにんきちさ)

河竹黙阿弥 作
串田和美  演出・美術

  和尚吉三 中村 勘三郎             
  お嬢吉三 中村 福 助             
  お坊吉三 中村 橋之助
   十三郎 中村 勘太郎              
   おとせ 中村 七之助    
研師与九兵衛 片岡 亀 蔵           
土左衛門伝吉 笹野 高 史