2008/12/06

太鼓たたいて笛ふいて

林芙美子の後半生を描いた音楽劇。
放浪記で名を成した芙美子も近作が重版禁止となって面白くない。時代を動かす、国が求める物語が必要と諭され、南方戦線の従軍記で戦意高揚に尽くす。だが戦争の実相を知った今、イケイケどんどんと囃し立てた自分を許せない芙美子は、非国民のそしりを恐れず自分のやり方で愛国心を貫こうとする。

穏やかでユーモラスな庶民の日常をスケッチする楽しさに戦時の緊張感が割り込んでくる波乱含みの前半。休憩を挟んで、後半は戦況の悪化から敗戦、戦後へと押し流されていく日本の変化が描かれる。反戦のテーマとメッセージがドラマティックに浮かび上がるが、全然説教臭くなくイデオロギー的でも無い。普通の人の弱さや優しさを通して、美しく尊いものの価値を提示してくれる。戦意高揚した責任は、仕事を通して乗り越えていこうとする芙美子の苦渋に満ちた言葉を全身で客席にぶつける大竹しのぶに思わず泣かされた。

6人の登場人物が芙美子の家の小さな茶の間を中心に繰り広げるドラマの大きさと深さに圧倒された。音楽も役者も無駄な飾りが無く。何処をとっても見事に洗練され、ハイレベルであり完成度が高い。原稿用紙をモチーフにデザインされた舞台装置の端正な形とデリケートな色彩の美しさは快感だった。

田母神論文などというものが世上賑わす昨今、申し分の無いタイミングでの再再演といえよう。それにつけても、井上ひさしという人はこんなに凄い人だったのかと、今更その偉大さに気がついたのは我ながら恥ずかしい。

12.5 21-11

サザンシアター
作  井上ひさし 
演出 栗山民也
美術 石井強司
照明 服部 基
出演 大竹しのぶ、木場勝己、梅沢昌代、山崎一、阿南健治、神野三鈴。
演奏 朴勝哲。