2008/06/15

山のあなた 徳市の恋

人は皆、何らかの重荷を背負って生きている。つかの間、重荷をほどき、浮世のしがらみから解放され、袖振り合う人々の想いが綾なす山の温泉宿。山の鄙びた温泉場で按摩の徳市が出会った美しい人。都会の匂いを運んで来たその人にいつしか想いを募らせる徳市だったが、彼女に行くところ何故か盗難事件が頻発する。

どちらかと言えば、演技を感じさせない自然さが持ち味の草なぎ君だが、今回は盲人の按摩の所作、動作を丁寧な模写でリアルに演じている。これまでのイメージからみれば、とても演技を感じさせるのだが、徳市という結構アクの強いキャラクターにはそれが却って効果的だ。徳市の同僚を演じる加瀬亮は、草なぎとは対照的で、いま上げ潮の若手が良くここまでと思わせるほどに主役をたてる役回りに徹しているのにはちょっと感心した。ヒロインを演じるマイコは、ミステリアスな表情に適度なフェロモン漂う美貌でビジュアル的な効果は抜群。温泉客の堤真一がマイコの魅力につい長逗留してしまうのも当然だ。

謎のヒロインを挟んで、草なぎと堤真一が織りなす三角関係を横糸とすれば、縦糸は学生を按摩に踊り子を都会の女に置き換えた「伊豆の踊り子」なので、儚い恋、叶わぬ想いの切なさが一番の味わいどころだが、大人の話に換骨奪胎したにしては艶っぽさが足りない。マイコのビジュアルに頼り過ぎなのである。徳市にはマイコがみえないのである。草なぎもやんちゃで健康的だが陰影に乏しい。徳市の盲目なるが故のエロティシズム(そんなものがあるかどうか分からないが盲人が主人公なら)や身悶えするような大人の切なさが欲しかった。
コメディータッチだが笑える場面はほとんどない。

監督:石井克人
脚本・原作:清水宏
製作:亀山千広
撮影:町田博
音楽:都築雄二
2008年日本映画
上映時間:1時間34分
配給:東宝