
007に邦題がついたのは久しぶりです。「慰めの報酬」曰くありげで格好いい邦題だと思います。でも意味は良くわかりませんです。
オープニングの激しいアクションは007のお約束です。前作から始まった、生理的な痛みや恐怖感を前面に押し出す演出は、さらに過激なアクションシーンを実現しています。一段目が収束したと見せて二段三段とたたみ掛けてくる展開はスピード感と重量感を両立させたハードなものでありながら、過去の作品への敬意を示すなど遊び心にも溢れて楽しめます。ボンドが陸海空に展開するバトルと超絶体技。全編に渡って、アクションシーンは実に洗練されてエレガントでさえあります。
ビックリしたのは素晴らしく状態のいいDC−3が登場してきたこと。冒険小説の栄光を担った名機の思いがけない大活躍には、この作品に注ぎ込んだ製作陣の愛と見識の深さが感じられました。
イアン・フレミングはボンドのイメージをケーリー・グランドに求めていたため、タイプの異なるショーン・コネリーの起用には反対だったらしいのですが、結果はボンド is とまで謳われたショーン・コネリーの魅力によって、硬軟併せ持つボンドのキャラクターも決定づけられました。ショーン・コネリーが降板してからは、ロジャー・ムーアからピアーズ・ブロスナンへと主としてボンドの軟派なDNAが受け継がれていきましたが、私はニヤけたボンドには違和感がありましたので、「カジノ・ロワイヤル」でボンドの硬派なDNAと共に登場してきたはダニエル・クレイグには好感を持ちました。この軟派から硬派への移行と言うか改革は「ジェイソン・ボーン」の存在を抜きには考えられないことですが、ベテランが新人の活躍に刺激されて生まれ変わる、それを、これほど決定的に鮮やかに成し遂げたダニエル・クレイグには絶賛の拍手を送りたいと思います。
絵に描いたような悪党面のゲルト・フレーベやアドルフォ・チェリが世界征服を企んだのも今は昔。今回ボンドがあぶりだす敵はNPOの環境保護団体という仮面をかぶっています。国家間の利害が多様に絡み合って、政治的な難しさを伴っているという状況設定説明など上面だけですが、物語にリアルさを与えるには必要充分でした。しかし、敵の首魁を演じたマチュー・アマルリックにはボンドに拮抗するだけの暴力性や身体能力が感じられず、ラスボスとの闘いにもかかわらず、アクションシーン全体の中でも弱くなっていたのが難点といえば難点でした。
とはいえ、良くできた作品です。中でも、ダニエル・クレイグが進境著しく、前作より遥かに魅力的なボンドを見せてくれました。ボンドに比例するようにジュディー・デンチも流石の貫禄で場面を引き締めています。今迄で最高のMだったのではないでしょうか。オルガ・キュリレンコのべたつかずキリっとした様子も説得力ありました。それらの中心にあって、やはりダニエル・クレイグの魅力が際立ちました。ホテルの部屋をチェックするボンドが、上着を脱ぎながら隣の部屋に消えていく。その姿の何とカッコいいこと。痺れました。脚本も演出も素晴らしいのですが、これは徹頭徹尾ダニエル・クレイグの格好良さを楽しむべき作品だと思いました。「カジノ・ロワイヤル」と見比べると良くわかるります。スーツの着こなし、身のこなし、表情のニュアンスまで、まるで別人のように垢抜けたボンド冷たい怒りが炸裂した「慰めの報酬」でした。
原題:Quantum of Solace
監督:マーク・フォースター
脚本:ポール・ハギス、ニール・パービス、ロバート・ウェイド
製作総指揮:カラム・マクドゥーガル、アンソニー・ウェイン
製作:バーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソン
撮影:ロベルト・シェーファー
美術:デニス・ガスナー
音楽:デビッド・アーノルド
出演:ダニエル・クレイグ、オルガ・キュリレンコ、マチュー・アマルリック、ジャンカルロ・ジャンニーニ、ジェマ・アータートン、ジェフリー・ライト、ジュディ・デンチ、イェスパー・クリステンセン
2008年アメリカ・イギリス合作映画
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント