2006/09/18

ユナイテッド93


2001年9月11日朝8:46、世界貿易センター北棟にAA11便が突入。9:03にはUA175便が南棟を直撃した。墓石と化した摩天楼を映すCNNに世界が震撼していた頃、9:37AA77便がペンタゴンに激突。4機目は依然飛行中だった。

管制から逸脱する不審機が複数のハイジャックへと発展し、更にあり得ない破壊行為へとエスカレートしていく混乱に、極限の対応決断を迫られる航空管制官達、軍関係者等の闘い。離陸から墜落までのUA93便の機内で繰り広げられたであろう闘いがタイトに描かれる。

ハイジャックされた4機の中、唯一、標的を捉え得ずペンシルバニア州ジャクソンビル郊外に墜落したUA93便が、サンフランシスコに向けてニューヨークを飛び立ったのはAA11便の突入に先立つわずか4分前の8:42。そこから墜落した10:03までを通して描かれた9.11。

緊迫感漲る航空管制官達の交信。リアリティーある93便の乗員乗客犯人達の人間描写。緻密な構成とシャープな映像の、見事に迫真的なドキュメンタリータッチで描き出された9.11の全貌。
ポール・グリーングラスの、痛みと共感と祈りの深さに裏付けられた秀作である。

原題:United 93
監督・脚本:ポール・グリーングラス
撮影:バリー・アクロイド
音楽:ジョン・パウエル
出演:ベッキー・ロンドン、シェエン・ジャクソン、チップ・ジエン、クロー・シェーン、クリスチャン・クレメンソン、
2006年アメリカ映画/1時間51分
配給:UIP

スーパーマン・リターンズ 


クリプトンに帰省したスーパーマンが地球に帰還した時、既に5年の歳月が流れていた。この間、ロイスは「スパーマン不要論」でピューリツァー賞を受賞!さらに結婚して1児の母となっていたのだった。果たして、今の地球にスーパーマンの居場所は有りや、ってところから始まるリターンズなのである。

正義と真実のため、日夜戦い続けてきたスーパーマンにしてこの扱いなのである。愛する人は子持ちの人妻となり、その上存在さえも否定されるのである。スーパーマンも人の子であれば、こんな仕打ちに耐えかねていっそダークサイドに身を投じたとしても不思議はない。そうなったとして、一体どこの誰がこの超人を責めることができようか、てなもんである。

がしかし、我らがヒーロー界にあって、頂点に君臨する男はそんな眼にあっても決してグレたりしないのだ。恨まず腐らず悪びれず、ただ正義と真実を守る為に、人々が必要と言ってくれる日を信じて身を粉にして闘うのである。ヒーローも生き難い時代への対応を迫られる嫌な時代に、愚痴ひとつこぼすでもなく自分の使命を果たそうとする。立派だ。

出世作Xメンの演出よりスーパーマンを選んだブライアン・シンガーだが、巻頭から透過3Dのタイトルロゴ、ジョン・ウイリアムズのテーマ曲、マーロン・ブランド、ジェフリー・アンスワースの麦畑等々、次から次に繰り出されるイメージは1978年のリチャード・ドナー版スーパーマンへの敬意に満ち満ちている。

あれがほんとに大好きなんだなぁという感じが色濃いが、でも、全然構わない。ヒーローはよりパワフルだし、助走なしのフライングもスピードと安定が増して格好良いい。ケビン・スペイシーのレックス・ルーサーもジーン・ハックマンより大物感があって大変結構。ロイスがもっと魅力的だったら、切なさ増した結構な大人の恋愛映画にもなったものを、と惜しまれた。



ちなみに、76年「キングコング」77年「スター・ウォーズ」78年「スーパーマン」という順序で制作公開された3作品、約25、6年たって、時を同じく完結、リメイクってのはシンクロニシティーかノスタルジーか企画の貧困か単なる偶然か分からないが、何かと興味深い。


原題:Superman Returns
監督:ブライアン・シンガー
脚本:マイケル・ドアティー、ダン・ハリス
撮影:ニュートン・トーマス・シーゲル
音楽:ジョン・オットマン
出演:ブランドン・ラウス、ケイト・ボスワース、ジェームズ・マースデン、フランク・ランジェラ、エバ・マリー・セイント、ケビン・スペイシー
2006年アメリカ映画/2時間34分
配給:ワーナー・ブラザース映画

2006/09/10

Xメン/ファイナル・ディシジョン


自分の命と引換に仲間を助けたジーン。ジーンを失ったXメン達は立ち直れずにいた。そのころミュータントを無力化させる新薬が開発される。マグニートーは危機感を募らせ、プロフェッサーとの対立は一層激化し、全面戦争に突入する。しかし、Xメンの前に立ちはだかったのは他でもない、超絶的な怒りのパワーとともに蘇ったジーンその人だった。

いや、参りました。最高かこいい。
あの人もこの人もバタバタと消えていく劇的な展開だが、行動の心理的裏付けがしっかり描かれているからドラマが盛り上がる。ドラマが盛り上がるから超能力戦に一層の説得力が生じ、見せ場が見せ場としてのドラマ的意味と視覚的価値を発揮している。緩急も観客の心理によく対応し、無理なく乗せられる。乗せられたままあり得ない怒濤のクライマックス。超絶サイキック戦のVFXを最後の泣かせる大芝居へと見事につなげた技にも痺れた。

シリーズ前2作のブライアン・シンガーが「スーパーマン」へ、「スーパーマン」をやるはずだったブレット・ラトナーが「Xメン」へと変わったという事情があったらしいが、どちらも素晴らしい仕上がりで誠に喜ばしい。ブレット・ラトナーには大満足だ。

原題:X-Men: The Last Stand
監督:ブレット・ラトナー
脚本:ザック・ペン、サイモン・キンバーグ
撮影:ダンテ・スピノッティ
音楽:ジョン・パウエル
出演:ヒュー・ジャックマン、ハル・ベリー、ファムケ・ヤンセン、イアン・マッケラン、パトリック・スチュアート、
2006年アメリカ映画/1時間44分
配給:20世紀フォックス映画

2006/09/03

グエムル/漢江の怪物 


白昼、河川敷の市民は突然正体不明の怪物に襲われる。蹂躙を尽くした怪物は多数の死傷者を残し漢江に姿を没し、市民はウイルス感染の恐れから強制隔離される。怪物に一人娘を殺され、悲嘆にくれる父親に当の娘から携帯に連絡があり、当局に訴えるが取り合ってもらえない。娘の生存を確信した家族は独力での救出に立ち上がる。

前評判の高い韓国発怪獣映画は、怪物相手に孤軍奮闘する家族の姿を通して、家族の素晴らしさと情けない中年男の自立と再生とを描いている。それ自体に何の異論もないが、シチュエーション設定やキャラ造形の全てがその一点に向けられていて、怪獣の魅力はおいといて、はなはだ興をそがれた。

相当な人的被害が出てるにもかかわらず、怪物に対するマスコミ警察軍隊の反応がウイルス汚染対策だけというのでは、タマちゃん一頭で連日大騒ぎをした日本国民を説得するリアリティーには欠ける。ソン・ガンホの駄目オヤジ振りも、巧みな程にかえってあざとくも感じらる。

カメラに写っているところはしっかり描かれているが、その裏で世界がきちんと機能してる様子はなく、テーマに都合の良いようにしか動いていないのが弱点。止めの一撃で人間と怪獣の体重差が考慮されてないのも象徴的なのだが、要は個と全体の描き方が感情的すぎ、バランスも悪いのだ。

怪獣の造形と生態は見応えがあり、お祖父ちゃんと孫娘と叔母さんはとても魅力的。

英題:The Host
監督・脚本:ポン・ジュノ
脚本:ハ・ジョンウォン、パク・チョルヒョン
撮影:キム・ヒョング
音楽:イ・ビョンウ
出演:ソン・ガンホ、ペ・ドゥナ、ヒョン・ヒボン、パク・ヘイル、コ・アソン
2006年韓国映画/2時間
配給:角川ヘラルド映画

マイアミ・バイス


マイケル・マンがTVシリーズの製作総指揮だったとは知らなかった。それにしては、と言うべきか、だからというべきかTVとは随分違う。オリジナルが陽気な洒落者コンビだったのに比べると、ジェイミー・フォックスとコリン・ファレルは陽気でもなけりゃ洒落てもいず、笑顔のひとつみせるでもなく、ジョークのひとつも口にすることなく、正体不明の麻薬王をあぶり出すべくシリアスにハードな潜入捜査に邁進しするのだった。

前作「コラテラル」が快調だったマイケル・マン、その余勢をかって自らのヒットシリーズをリニューアルという感じなのだろう。スタイリッシュな画作りで力の入った演出なのだが、いまいち盛り上がらないのだなぁ。それというのも、コリン・ファレル、ジェイミー・フォックス、コン・リーに魅力がない。いつまでたってもちんぴら感が消えないファレルがやたらいきがって、しかもむさ苦しいし、コン・リーのキャリアウーマン風には輝きもなけりゃ説得力もない。

ストーリーと主演の3人を除けば、魅力的な画は随所にある。壮大に盛り上がった雲間を飛行するプライベート・ジェットと捉えたグラマラスなショット。イグアスの滝の大俯瞰も素晴らしい。マイケル・マンのタッチは悪くないのだが、脚本がもっと良くて、主役三人全取っ替えで、ゴージャス感があって、あと30分短かったら楽しめたこと請け合い。

原題:Miami Vice
製作・脚本・監督:マイケル・マン
製作:ピーター・ジャン・ブルージ
撮影:ディオン・ビーブ
音楽:ジョン・マーフィー他
出演:ジェイミー・フォックス、コリン・ファレル、コン・リー、
2006年アメリカ映画/2時間12分
配給:UIP

2006/08/20

表現したい人のためのマンガ入門

変な名前ってことでは、例えば吉田戦車や吉本ばなななど、結構なインパクトがあった。しりあがり寿http://www.saruhage.com/ってのも相当変だが、末広がりの言い換えには芸があるし、寿には社会性豊かな常識人の気配が漂う。意味不明な戦車やばななの暴力性に比べ、「しりあがり寿」には良識というか、理知と含羞もほの見える。

この、へたうま派の巨匠がガイドする「マンガ入門」は、若くして漫画家を志して以来、しりあがり寿がどのように生まれ、何を考えどのように漫画を書き続けてきたか、自作の解題を通して語られるその軌跡が、昭和から平成へと変化していく世相とともに、若さから成熟へと真っ当な変化を遂げる作者を確かな輪郭で浮かび上がらせる。それがとても気持ちよく、これがまた格好いい。

「表現したい人のためのマンガ入門」とはいうが、マンガを描くためのHow to本としての効能を期待したら裏切られるだろう。言ってみればマンガを通して物事の普遍的なHow toに迫った野心作。タイトルから言えばむしろ「表現したい人のため」の部分にこの本の眼目がある。表現したい人の、とはつまり、全ての人に向けてという意味だろう。なんと大それた、でもそれだけの面白さはある。

講談社現代新書

2006/08/13

サイレントヒル 


ゲームの映画化ってことで、元のゲームは知らないしホラーも苦手だから見る気はなかったが、絶賛する声が少なくないのが気になって見に行く。行って良かった。

夢遊病の娘がつぶやく言葉に導かれ、サイレントヒルという名のゴーストタウンにたどり着いた母と娘。しかし娘は忽然と姿を消し、母は我が子を取り戻すべく死の街の奥深くに分け入っていく。

元がゲームというだけあって、ゴーストタウンで娘を追うだけのシンプルな設定。ここにヒロインの危機が連続するプロセスもまたゲーム的だが、訳分からないまま葛藤、決断を繰り返し、核心に肉薄していく母親を演じたラダ・ミッチェルの節度、品位、色気のバランスが絶妙な魅力は、まさに映画ならでは。

この監督、語り口も見せ方もセンス抜群。イマジネーション豊かな絵作りが素晴らしい。要所要所でヒロインを脅かすクリーチャー達も、怖さより気色悪さが特徴的だが、何より、観客を背後から驚かすような演出をしていない。そういう刺激を期待すると物足り無く感じるかもしれないが、ビクビクさせられるのは嫌なので全然不満はない。

それより世界の全体像が明らかになるにつれ、アート的な統一感を深めていくビジュアルが、思いがけないイメージとスケールで一気に結晶していくクライマックスの素晴らしいこと。このクライマックスの迫力と美しさに唖然。唖然としながらも、力強さと問答無用のカタルシスに心の中で拍手喝采。

おぞましさと気色悪さを、えげつなくも品位のある映像で見せた、アート風味も魅力なホラー。エピローグの切なさも味わい深い。
 

原題:Silent Hill
監督:クリストフ・ガンズ
脚本:ロジャー・エイバリー
製作:サミュエル・ハディダ、ドン・カーモディ
撮影:ダン・ローストセン
音楽:ジェフ・ダナ、山岡晃
出演:ラダ・ミッチェル、ショーン・ビーン、デボラ・カーラ・アンガー、ローリー・ホールデン、ジョデル・フェルランド
2006年アメリカ映画/2時間6分
配給:松竹

2006/08/11

こころ

昔、「夏への扉」なんて名作を読んだせいか、夏にはSFが読みたくなる。面白そうなSFを物色するつもりで書店に入ったが、夏休みのキャンペーンで平積みになっていた「こころ」に、「我が輩は主婦である」の楽しかった記憶から思わず手が伸びてしまった。そうだ、これ読んでないし、夏の課題図書にぴったり。価格的にも嬉しい。ちょっと比較したら集英社320円、角川340円、新潮380円。読みやすそうで、何より安い集英社文庫をレジに持って行く。

夏休みの鎌倉海岸、避暑地の退屈をもてあました私の目に映った一人の男。それが先生との出会いだった。高潔だがどこか冷ややかな人柄、不可解な生き方、謎めいた先生と過ごした豊穣の時。不意に訪れる別れと全てを明らかにする手紙。不幸の上に幸せを成り立たせてしまう人間の罪と罰。

そうか、こういうお話だったのか。もっと重苦しくて暗いものと思ってたが、明晰な文章の平明なお話だった。倫理的道徳的なテーマ性からも、若い時により切実な共感をもって読めたら一番だろう。ここに描かれた板挟みには普遍性があると思う一方で、今の時代、若い人達がどの程度のリアルさを実感するものなんだろうかとも思う。

何より、「こころ」に登場する女性達は今日的な説得力に欠けた存在に映らないか。このあたり、今の女性から見てどうなんだろうか。漱石の描く女性達はあまりに封建的な女性観の範囲に納まっている。漱石って、女の人が巧く描けない人だったのね。いやこれは貶してる訳じゃなく、好感している訳ですけど。

我が輩を主婦に乗り移らせたクドカンはいろんな意味で深いなと改めて思った。

日本沈没

樋口監督、VFX的には気持ちよい絵作りだが、それ以外はとんと魅力がない。

国土消失の危機に瀕して一向に盛り上がらない展開は、ミクロ的にはべたな感傷の大安売りで恥ずかしいし、マクロ的には危機管理のダイナミズムに欠ける。

早い話が、「タイタニック」と「アルマゲドン」を足して4で割ったような、実にどうも、この素材にしてこの料理かと、あまりに安手なドラマ連発の沈没具合に脱力しきりで、泳ぐ気力もなく溺死。

ハチミツとクローバー

5人の美大生の恋愛模様を描いた人気少女マンガの映画化。評判がいいので観にいった。

奇才天才平凡美貌入り乱れた仲良しグループが繰り広げる、全員片想いのトレンディードラマ風ラブコメディー。5人の専攻がそれぞれ絵画、彫刻、建築、陶芸でお洒落方面に強いデザイン科生がいないのはちょいと意外。主人公は天才とうたわれる大学1年生、この少女が抽象画で認められてるって設定はちょっと面白いが弱い。

でも、そうゆー理屈や些細なことは気にしない。スクリーンに映る若く美しく魅力的な俳優達の青春を楽しもう。葛藤や挫折はもれなく青春に付いてくる、オヤジには、それがいくら緩そうに見えたって、当事者にとっちゃ大変なことには違いない。

陶芸専攻山田を演じた関めぐみ、他の4人にそれほどキャラクター的な魅力がない中、ひときわ輝やきが魅力的。素晴らしい。



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