2007/01/04

犬神家の一族

日本の田舎をゴシックホラーなミステリ空間に変えた横溝正史の面白さを市川崑が巧に映像化した金田一耕助シリーズ。自分の中では「悪魔の手鞠唄」が一番の好みだが、第1作目の登場は社会現象化したインパクトあるものだった。

その「犬神家の一族」を91歳の市川崑が30年ぶりに再映画化という話題作。
懐かしいテーマ曲が流れて、メインタイトルも(フォントがでかいような気もするが)そのまんま。おなじみの扮装の石坂浩二も年齢を感じさせぬ若作り。前作をどれだけ忠実にコピーするかがテーマか、と思わせる滑り出し。

原作に忠実な映画化は特に珍しくないが、元の映画に忠実なリメイクというのは希少だろう。遺産相続を巡る連続殺人。だが、前作にあったゴシック的な怖さは影も形も無い。映像的にも、市川崑らしいライティングもなければ華麗な絵作りもない。

定められた筋にそって、定められた役割の人物が動くのを見せられるばかり。出てくる役者が皆、石坂浩二、富司純子、松坂慶子、中村敦夫、加藤武か ら深田恭子まで揃いも揃ってお約束のベタな芝居。何だかイライラしてくる。しかし、監督91歳なのだと思えば、そんなことでイラついてはいけないと思い直 す。

これは様式美なのである。そう見れば役者も様式に則った演技をしているではないか。松坂慶子も萬田久子もあの岸部一徳でさえ見事なベタさ加減では ないか。だから、木久蔵師匠や三谷幸喜の芝居が無理無く収まっているのに、ナチュラルっぽい松嶋菜々子が却って浮いちゃったりするわけだ。そうしたお芝居 らしいお芝居を競い合うお約束な演技合戦の中で、ひときわ見事な輝きを見せるのが富司純子。全くもって見応えのあるお約束なお芝居から生まれる魅力と存在 感。今年は「寝ずの番」「フラガール」と続いたが、ここに至って他の追随を許さぬ技を極めた感がある。

ミステリ映画として面白いかと言ったら全然面白くは無い。でも、91歳の監督のもと、高齢化した役者集団を中心に若手も集って様式美の追求とばか りに皆で遊び倒したかとみれば、団塊が定年を迎え、高齢化社会の波頭が日本列島を洗い始める今日この頃、そうしたラディカルさをこそ評価すべきなのであり ましょう。

監督:市川崑
プロデューサー:一瀬隆重
脚本:市川崑、日高真也、長田紀生
原作:横溝正史
音楽:谷川賢作
テーマ音楽:大野雄二
出演:石坂浩二、松嶋菜々子、尾上菊之助、富司純子、松坂慶子、中村敦夫、加藤武、
2006年日本映画/2時間16分
配給:東宝