2008/05/06

團菊祭五月大歌舞伎 夜の部

一、通し狂言 青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)
  
 白浪五人男
「知らざぁ言ってきかせやしょう」耳に馴染んだ台詞を、今回初めて舞台で見たが、いきなり頂点に押し上げるような一瞬の快感に思わず笑い出したくなるような心持ち。名台詞の威力を炸裂させる菊五郎の弁天小僧は、若侍に扮してお姫様をたぶらかし、娘に化けてペテンをかまし、正体ばれたと片肌脱いで、挙げ句に大屋根の上での大立ち回りの大活躍で大盛り上がり。團十郎は悠揚迫らざる受けの芝居で日本駄右衛門の大物振りを好演。若い頃は口跡が気になったが今はそんなこともなく喜ばしい。三津五郎の忠信利平も安定感と存在感で場面を引き締め流石。南郷力丸は結構な狂言回しで多彩に変化し出番も多い役どころだが、左團次は何か物足りない。赤星十三朗の時蔵はいつもの女形の演じ方との違いが見えないのが気になった。

様式美を極めた背景衣装演技に、一大スペクタクルな装置が加わり、荒唐無稽であり得ない展開のお話もまた、まさしく歌舞伎の醍醐味なのだと改めて感じさせる豪華で大胆、エキサイティングな娯楽大作。いつもは花道も見えぬ三階からだが、今日は一階ほぼ中央から一部始終をくまなく眺めて大満足。

二、三升猿曲舞(しかくばしらさるのくせまい)
松緑に奴四人が絡む短めの舞踊で弁天小僧の興奮をしばしクールダウン。楽しさの余韻に包まれて帰路についた。

2008/05/02

カラス




洗濯物を干しながら手の先にある電柱に目がいった。1
トランスにワイアが沢山絡まっているように見えた。2
一体どうしたのかと思ったら、カラスの巣だった。 3

こんな家が密集した、しかも通学路の真上で巣作り。
ここ数年、至近で見ることが多くなってはいたけど、
こんな処にまで生活圏を広げてたとは知らなんだ。

その昔、屋根の上のカラスと視線が合ったと思ったとたん、
カラスが一直線にこっちめがけて飛んできたことがあった。
この連休中は、赤ちゃん抱えて神経質になってるカラスと
目を合わさないように気をつける。

2008/04/29

そろそろ旅へ 松井今朝子

水戸黄門の主題歌ではないが、人生はしばしば旅になぞらえられる。しかし、一口に旅と言っても、身一つを頼りの風まかせで追いはぎ、雲助、胡麻の灰の脅威をかわしながら歩き通した昔の人に較べたら、より速く、より遠く、より豊かな旅を楽しむ現代人は何と恵まれていることか。

昔から、日本武尊や源義経の悲劇の旅や、道行きという名の死出の旅は、好んで劇化され、多くの人々に支持されてきた。西行法師や「旅に病んで夢は枯野をかけめぐる」と詠んで果てた芭蕉を待つまでもなく、昔の旅には寂寥、孤独、死の影も色濃い。

そうした時代の旅を笑いで革新したのが「東海道中膝栗毛」ということで、駿府の同心の家に生まれた男が紆余曲折を経て十辺舎一九となるまでが、田沼意次のバブルから松平定信の緊縮財政へと移る時代背景とともに描かれる。伸びた背筋が気持ち良い十辺舎一九の肖像。当時の政治経済文化風俗描写は切れ味よく、蘊蓄もストーリーに無理なく馴染んで、テンポ良くリーダビリティーも高い。趣向を凝らしたエンディングの余韻も好ましかった。


3月26日 第1刷
1800円
講談社

2008/04/28

紀元前1万年

正体不明の奴隷狩りに許嫁を連れ去られた若者の、許嫁奪還の旅。
メル・ギブソンの傑作「アポカリプト」が同じようなストーリーラインをたどったが、作品の方向はまるで異なっている。こちらはピーチ姫を追いかけるマリオという味わいの物語ながら、物珍しい紀元前1万年前の光景に、一応のハラハラドキドキ感を添える役割は果たしている。

とにかく、誰も見たことが無い紀元前1万年前なのである。しかもローランド・エメリッヒなのである。ローランド・エメリッヒと言えば、最強の装備を持つ超巨大UFOに対し、MacだかWindowsだかのコンピューターウイルス送り込んで混乱させ、その上核の特攻攻撃で凶悪宇宙人の野望を見事に打ち砕いた男なのである。ビジュアルの為なら何でもできる、少年の心も失わぬ、正に男の中の男なのである。

その男が、これが1万年前の世界だと言うならそうなのだ。多少怪しくても、理屈に合わなくても気にすることはないのである。見たことの無い動物や建築中の世界遺産の様子など、見るのも叶わぬものを見事な映像で示してくれる。立派な男子の仕事。それでいいのである。

許嫁を演じたカミーラ・ベルのエキゾティックで可憐な美貌が、CGメインのビジュアルに魅力的なアクセントにもなっていた。

原題:10,000 B.C.
監督:ローランド・エメリッヒ
脚本:ローランド・エメリッヒ、ハラルド・クローサー
製作総指揮:ハラルド・クローサー、サラ・ブラッドショー、トム・カーノウスキー
製作:マイケル・ウィマー 、ローランド・エメリッヒ、マーク・ゴードン
撮影:ウエリ・スタイガー
音楽:ハラルド・クローサー、トマス・ワンダー
美術:ジャン、バンサン・ピュゾ
出演:スティーブン・ストレイト、カミーラ・ベル、クリフ・カーティス、オマー・シャリフ
2008年 アメリカ映画 1時間49分
ワーナー・ブラザース

2008/04/25

ニシノユキヒコの恋と冒険

ニシノユキヒコの女性遍歴を追った連作短編集。
という体裁だが、それでは中身とかけ離れすぎ。様々な女性からいたぶられるニシノユキヒコの肖像、正確とは言えないがこの方が近い。川上弘美は凄い。異界へと開かれた回路を自由に往来し、この世ならざるものと交感する。ほとんどの場合、潜在的か露呈しているかの違いはあるが、それは本質的な怖さをはらんでいる。

ニシノユキヒコはきれいな男である。優しくて自分勝手。繊細で大胆。パワフルでどん欲。自分が欲しかったのはこれだと女性に思わせるような男。だが永遠の愛は誓えない。それゆえ別れは常に女性から。なので女性遍歴を重ねるように見えるが、必ずしもニシノユキヒコの望んだことではない。もててもニシノは可哀相な男なのである。もててももてなくても、結局男は可哀相なのである。女は怖いのである。誰でも知ってることなのである。

女の怖さはいろいろに描かれるが、こんなに静かに積み上げられた優しい残酷の切なく美しい形に、川上弘美の凄さも怖さもしっかり刻み込まれている。そんな、ニシノユキヒコの愛の姿を語り継ぐ女性達の独白を読み進むうちに、これは川上弘美の「裏・源氏物語」だったかと思えるほど、二シノユキヒコが光源氏のように見えて来る。

ニシノユキヒコの恋と冒険
川上弘美
平成18年 8月1日 発行
新潮文庫
438円+税

2008/04/22

大いなる陰謀

自らの野心とキャリアを賭けた新たな軍事行動をめぐり、独占スクープを餌に好意的報道をと迫るトム上院議員と職業的良心の間で揺れるメリル・ストリープ記者。懐疑的、冷笑的な態度を身にまとい始めた学生に自己中心的な価値観を越えた社会参加の価値と意義を説くカリフォルニア大のロバート・レッドフォード教授。上院議員の杜撰な作戦によって、アフガン山中敵陣の真只中に取り残された若い二人の兵士は、教授の反対を押し切って志願した優秀な教え子だった。

ワシントン、カリフォルニア、アフガン。軍事行動開始から集結へ短い時間にそれぞれの場所で交わされた会話から浮かび上がる今日の合衆国の1断面。
反戦とも、反共和党のプロパガンダとしての主張も明確な作品。その意味では大統領予備選の渦中に投入してこそ価値があるというようなものだが、こんなストレートな政治性をも売りにしてまうショウビズ界の、まず日本では考えられないしたたかさに感じいってしまう。

会話主体の動きの少ない内容だが、動的に構成された脚本と安定感ある演出でとてもスリリングに見せてくれる。メリル・ストリープの格調ある演技が断然素晴らしい。「イエシュ ォアノー」と迫りくるトム・クルーズの上院議員がなかなか良くって、かいま見せる俗な表情にも説得力がある。ロバート・レッドフォードの大学教授も理屈っぽくならず、説教臭くなくナチュラルさに好感する。しかしこれ、面白いが昨今の風潮からもヒットする内容じゃないし。

オールドメンにはもはやノーカントリーだと嘆こうが、今時の若者はとお定まりを吐こうが、事態が改善される訳も無い。改善どころかこんなにしちまった責任こそオールドメンなかったら、一体誰にあるんだってことだ。団塊オヤジこそ責任を自覚しなきゃいけないのに、無事にリタイアしてのうのうと暮らして行こうなんてふざけるな。って言われて言葉返せるオヤジがどれだけいるかってことだが。

アフガン山中に残された二人の若者。じりじりと迫ってくる敵兵に全弾ぶち込んでなお挫けないこの二人、明らかにブッチ・キャシディーとサンダンス・キッドへのオマージュと見えるところに、リベラリスト、レッドフォードの怒りと誇りをかいま見るようだ。

原題:Lions for Lambs
監督:ロバート・レッドフォード
脚本:マシュー・マイケル・カーナハン
製作総指揮:トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー
製作: ロバート・レッドフォード、マシュー・マイケル・カーナハン、アンドリュー・ハウプトマン、トレイシー・ファルコ
撮影:フィリップ・ルースロ
音楽:マーク・アイシャム
美術:ヤン・ロールフス
製作国: 2007年アメリカ映画
上映時間:1時間32分
配給:20世紀フォックス映画

2008/04/20

四月大歌舞伎 昼の部

3階西8番。一応最前列。と思っていたが下手と花道は全然見えない。舞台が見えない分は客席の反応で動きを想像せよ、というような席。やれやれ。

一、本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)十種香
替え玉たてて生き延び、別人に成り済ましたのに全てバレバレだった殿様を軸に、恋情に身を捩るお姫様と主君の犠牲となった男の妻の心情を対比する。
名作の誉れ高い本朝廿四孝、初めて見たが、今回は余り伝わってくるものが無かった。

二、熊野(ゆや)
豪奢を極めた衣装にしてあの風雅な佇まい。しかもそこはかとなくもの悲しい玉三郎。何処から見ても隙のない仁左衛門。絵に成り過ぎな二人の並のスケールには収まらない絵姿。背景は板ばかりで桜が入ってこない。こりゃ真正面から見れなきゃだめだ。3階西8番、最悪。

三、刺青奇偶(いれずみちょうはん)
勘三郎は惚れた女房の死に際に少しでも楽をさせようと、賭場にでかけてしくじってしまうが、その様子に興味を持った親分が博打の話を持ちかける。
小気味良い台詞回しの勘三郎と、生活感の表出とコメディーセンス抜群の玉三郎。息の合った二人の絡みが随所に展開して楽しめる。しかし圧巻は仁左衛門。場面さらうんだよなぁ。男振りの良さで。夜も昼も四月は結局仁左衛門に尽きるようだ。

ヒットマン

中立な「組織」としてあらゆる政権から暗殺の依頼に応える。その暗殺者達の中で抜きん出た成功率を誇る男が罠に落ちる。インターポールとロシア保安庁の追撃を躱し、反撃に転じる男に「組織」から送り込まれたヒットマン達がつぎつぎに襲いかかる。同名の人気ゲームが原作とのこと。

スキンヘッドにバーコード。暗殺者にしては目立ちすぎだと突っ込んではいけない。ビジュアルとしてかっこ良ければ、それこそ映画のリアリティとして価値がある。顔が命が人形ならば、映画は断然画が命だ。全編こだわりのかっこよさ満載したこの作品、讃えるべきは数あれど、悪いところなど何もない。

寡黙でストイックな47号をティモシー・オリファントが力強く演じている。ダグレイ・スコットのインターポールの凄腕捜査官も迫真的でかっこいい。ヒロインのオルガ・キュリレンコ、草食動物系のあっさりした顔立ちは厚化粧にもピュアな気配が漂い、エレガントな肢体にワイルドな脱ぎっぷりで、新ボンドガールに抜擢が納得の魅力を見せている。

ハードボイルドにセンチメンタルが背中合わせなら、禁欲主義に耽美は欠かせない。クールでセンチで耽美な最強のヒットマン、エージェント47の水際だった殺しの美学。胸のすくバイオレンスをスタイリッシュに積み上げる。要所を抑える遊び心とおフランスらしいお洒落なアートセンスも心憎い、超絶面白アクション巨編dさ。記憶すべき監督の名はザビエ・ジャン。

原題: Hitman
監督:ザビエ・ジャン
脚本: スキップ・ウッズ
製作総指揮:ヤーノシュ・フロッサー
製作:チャールズ・ゴードン、エイドリアン・アスカーリ、ピエランジュ・ル・ポギャム
撮影: ローラン・バレ
音楽:ジェフ・ザネリ
出演:ティモシー・オリファント、ダグレイ・スコット、オルガ・キュリレンコ
1時間33分 2007年アメリカ
配給: 20世紀フォックス

2008/04/19

うた魂

可愛くて歌はうまいが自意識過剰な合唱部の夏帆、好きな男子から歌う顔が面白いだと言われ大ショック。以来大好きだった合唱に嫌気がさし、大会予選を前に退部を申し出る。しかし熱いハートのライバルから「必死の顔に疑問持ってたら一生だせえまんまだ」と煽られて立ち直る。

という青春コメディーなわけだが、演出にセンスがなくて、ギャグは滑る、役者は馬鹿に見え、とくに間寛平の扱いはかわいそうだしで、しらけること甚だしく、浮つき加減も半端じゃない前半は痛すぎる展開。後半はそれでも、夏帆のナチュラルさと芸達者達の個人技、さらに決勝戦のステージパフォーマンスが加わって、ギリギリ作品として体裁が保たれたような有様。

文化放送と朝日新聞社が名を連ねた制作委員会。本業とは別にわざわざ娯楽映画をつくるなら、文化事業だろうと単なる金儲けだろうと、社名を傷つけぬクオリティーを示して欲しいもの。

監 督:田中 誠
脚 本:栗原裕光 田中 誠
主題歌:ゴスペラーズ
出 演:夏帆 ゴリ 徳永えり 亜希子 岩田さゆり 間 寛平 薬師丸ひろ子
製 作:『うた魂♪』製作委員会
2008 日活 120分

2008/04/17

償い 矢口敦子

『ごめんなさい!今までこんな面白いミステリを紹介していなくて』 20万部突破! 悲しいけれど暖かいミステリの隠れた傑作!20万部突破!などなど。幻冬舎の気合いの入った新聞広告。「隠れた傑作」って言い方に惹かれて手に取った1冊。

子供が病死、妻は自殺、仕事はクビなった医師が絶望の果てにたどり着いたのは、男がはるか昔に誘拐された幼児の命を救った街だった。ホームレスとなった男が巻き込まれた連続殺人事件。男の胸に生じたかすかな疑念は、やがて明確なイメージへと結晶し始める。

状況設定も物語の展開も大変ドラマチックだがリアリティーに欠け説得力も乏しい。元医師のホームレスの自意識過剰な述懐に興がそがれたし、その他の登場人物達もキャラクター的な魅力は弱い。狭い街とはいえ、関係者が至る所で偶然に邂逅するのも気になる。人の肉体を殺したら罰せられるのに、人の心を殺しても罰せられないのですか?という惹句が、単なる惹句だけで終わっているのも半端な印象が残った。

本来が鬼畜体質だし本格風味も苦手なので、そこから文句を言うのは筋がちがうかな。これは体質に合わなかった。

償い
矢口敦子
平成15年 6月15日 初版
平成19年12月11日  4版
幻冬舎文庫
648円+税