昭和から平成へと、いろいろなものが無くなったり変質したりした中で、我が子の為なら自分を顧みずに尽くすといった母親像なども、そうしたものの一つだったと思わせた、リリー・フランキーの大ベストセラー。ゴージャス度を高める東京にあって、より高いビルの誕生に地位を低落させられながら、どっこいそれでも生きている東京タワーの映画化。
原作ではオトンは勿論、ボクにも無頼が色濃く匂っているが、松尾スズキはそこをきれいに省いている。その分オトンが大人しくなって原作の毒は薄められ、オカンとボクの時間が濃密に描かれたて、映画はより一般受けする内容になっている。原作を大胆に再構成しながら、本来の良さや味わいを損なっていない。良くできた脚本だ。
内田也哉子から樹木希林へとつなぐ親子競演も、つぎつぎと小さな役で登場させる豪華なゲスト達の使い方も効果的。とりわけ祖母を演じた渡辺美佐子の、生活感に溢れた表現が印象的。千石規子、荒川良々、猫背椿、松たか子も良いが、やはり極め付きは、抑制された演技から滲み出る情感の深さで魅了するオダギリジョーだろう。
泣かせる内容だが泣ける作品では無い。その代わり、出演者達の泣き方が素晴らしいのに感動した。役者達もそれくらい自然に泣けたということだ。脚本も演出も観客を泣かせようとしない。感情の盛り上がりがピークに向かう途中で、スーッとフェードさせる。いかにもな音楽を流したりもしない、その節度と品位が画面に落ち着きと格調をもたらしている。
親子の時間を共有した者なら誰でも思いあたるだろう出来事や感情の起伏。人に言えることも、言えないことも、情けないことも、恥ずかしいこともみんな乗り越えて生きて行く。そうした力は何処から湧いてくるものか。いや、ほんと素晴らしいオダギリジョーの軽くも重くもある眼差しと笑顔。
監督:松岡錠司
原作:リリー・フランキー
脚本:松尾スズキ
撮影:笠松則通
音楽:上田禎
出演:オダギリジョー、樹木希林、内田也哉子、松たか子、小林薫
2007年日本映画/2時間22分
配給:松竹