脳梗塞で左目を動かす以外全ての運動機能が失われた男の生き方。
ブリジット・オベール森の死神のヒロインを思い出させる最重度の障害者が主人公。ELLEの編集長をみまった実話だという。どちらもフランス製。フランスは障害に対する理解や保障に優れてるのか。
コミュニケーションの手段が閉ざされた主人公の感覚や意識を描き出す1人称のカメラ。生を自覚した主人公が描かれる後半は3人称へと切り替わるなど、結構あざとい演出をしているのだが、少しもそうとは感じさせない。男の絶望や怒り諦めをしっかり伝えているし、無気力な主人公が周囲の人たちとの関わりの中で変化していく様子の、気取らぬ普通な感じも気持ちが良い。
色は抑えめでもトーンの豊かさで見せる映像は、アメリカ映画とは画然と異なるシックな美しさ。病室の窓で微風にそよぐカーテン。海風に揺れるフレアスカートの裾。オープンカーの風に髪をたなびかせる女。多くの感覚機能を封じられた主人公の、それゆえ一層鋭敏になったであろう官能を風とともに描き出すカメラもエロティックで素晴らしいのだ。
レントゲン写真に青インクがクールなメインタイトル。
エンドロールを締めているのは崩落する氷山のダイナミックなイメージなのだが、この映像の使われ方と効果は、「詩人の血」という、遥かな昔、草月会館で見たジャン・コクトーの作品を彷彿とさせて、作品の面白さとは別に、凄くノスタルジックな思いに浸ってしまった。
[監]ジュリアン・シュナーベル
[原]ジャン=ドミニク・ボビー
[撮]ヤヌス・カミンスキー
[出]マチュー・アマルリック エマニュエル・セニエ マリ=ジョゼ・クローズ
[配給会社] 2007仏.米/アスミック・エース
[上映時間] 112分