2007/12/19

ベオウルフ/呪われし勇者

怪物の蹂躙に人々は暗く沈んでいた6世紀のデンマーク。ベオウルフは死力を尽くして怪物を退治し、勇者の名と共に王国の富と権力を我が物とするが、そこには新たな呪いがセットされ、呪いはやがて王国を脅かす新たな厄災となって勇者の前に立ち現れる。

モーションキャプチャーとCGによる前作「ポーラー・エクスプレス」が余程楽しかったのか、ロバート・ゼメキスは再び同様の手法による映像の可能性を拡大すべく、より難易度の高い表現に挑んでいる。実験精神に溢れる意欲作だ。

エニックスが社運を賭けて大コケしたフルCG映画「ファイナル・ファンタジー」の辛さに比べれば、ベオウルフの人物表現はこなれて観易くはある。しかし、フルCGで実写のような人間を完璧に表現することは、CGを使う人たちにとって究極の技術目標なのだなぁと改めて感じさせる映像ではある。生気のないCGな表情。生き生きとした生命力を感じさせないCGな動き。表情も動きもモーションキャプチャーされて、豪華な出演者も実に勿体ない使われ方なのだ。特にジョン・マルコビッチの顔は巧くない。これラ全ては実写とCGの組み合わせを潔しとしないロバート・ゼメキスのこだわりとして、将来への貴重な技術の蓄積とされることだろう。

ストーリーは面白いのだ。父権の責任と男の業を問うテーマも今日的だし。クリーチャーや風景や空間移動など、人間が絡まないシーンの表現は申し分無いレベルを維持している。後は人間に魂を入れ、瞳に光を宿らせるだけなわけだが、実にこれが至難の業なのだな。困難な表現にチャレンジし、先駆者として受難の道を往くロバート・ゼメキスを支持する。これからも。

原題:Beowulf
監督・製作:ロバート・ゼメキス
脚本:ニール・ゲイマン、ロジャー・エイバリー
製作総指揮:ニール・ゲイマン、ロジャー・エイバリー
撮影:ロバート・プレスリー
音楽:アラン・シルベストリ
出演:レイ・ウィンストン、アンソニー・ホプキンス、ジョン・マルコビッチ、アンジェリーナ・ジョリー、ロビン・ライト・ペン、2007年アメリカ映画/1時間53分
配給:ワーナー・ブラザース映画

2007/12/16

アイ・アム・レジェンド


「吸血鬼」というタイトルだった原作を読んだのは何十年も昔の事だが、正常と異常を一瞬に入れ替えてしまう鮮やかなエンディングで、こちらの認識がコペルニクス転回させたられたことは鮮烈に覚えている。チャールトン・ヘストンで映画化された『オメガ・マン」には、つまらなかった記憶しかない。

無人の廃墟と化したニューヨークを迫真的に映す、CGの素晴らし過ぎる映像美。マンハッタンを終末の光景に変えて余すところなく見せ尽くす。これだけでこの作品は見るに値する。ウィル・スミスは深みのある演技で、超絶的な孤独感の中で、規則正しい日常を維持しようとする姿に説得力がある。相手役なしのサバイバルシーンにもドラマ的な奥行きを与えている。主人公が空母イントレピッド上のブラックバードから見事なスイングで摩天楼にドライバーを打ち込むシーンの、ダイナミックかつ詩情に溢れた素晴らしさ。イマジネーションの凄さに感動する。とにかくこの作品のマンハッタンが封鎖される迄もその後もビジュアルが実に魅力的で、実に良くできている。どんな風に作られていったものか、メイキングの DVDが凄く楽しみだ。

しかし、後半はゾンビもののジャンル映画と化していくのがしょうがないと言えばしょうがない。ゾンビ映画もメジャーが作ればこれほどゴージャスになるんだよ、と制作者が自負したかどうか知らないが、前半のワクドキ感も、結局は月並みなアクションホラーに回収されてしまうのだった。バイオハザードと変わらない。いや、それでも面白いから、ジャンル映画と割り切れば良いのだ。
でもね、前半の展開が引き締まって面白かっただけに、後半の安易なゾンビ化と、原作のスケールや苦みにかすりもしないエンディングの月並みが、何だかとっても惜しまれるのだ。

原題:I Am Legend
監督:フランシス・ローレンス
脚本:マーク・プロトセビッチ、アキバ・ゴールズマン
製作:アキバ・ゴールズマン、デビッド・ヘイマン、ジェームズ・ラシター、ニール・H・モリッツ、アーウィン・ストフ
原作:リチャード・マシスン
撮影:アンドリュー・レスニー
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演:ウィル・スミス、サリー・リチャードソン、アリス・ブラガ
2007年アメリカ映画/1時間40分
配給:ワーナー・ブラザース映画

2007/12/15

ビューティー・クイーン・オブ・リナーン


アイルランドの荒涼とした丘に建つ一軒家に暮らす親子。底意地悪く頑固な母と、そんな母の介護に花の盛りを捧げた娘。娘の希望は母の絶望。傷つけ合いながら依存せずにはおられない二人の、際どい綱引きの均衡は、保たれるのも破られるのも、己の幸せを求める心の故だった。

水道から水も出ればガスコンロには火がつく。リアルに設えられたリビングキッチンを縦横に動き回る大竹しのぶの娘。ロッキングチェアに凝固したような白石加代子の母。化け物のような変幻自在振りを発揮する2大女優が、母のエゴと娘の被害者意識のドロドロとを激しくぶつけあう。力と技と存在感が火花を散らし、ブラックな笑いが振りまかれ、一層危ない感じを募らせていく。そうそう、こういうガチンコ対決が観たかったのだ。期待に違わぬ白石、大竹の競演。

しかし、休憩を挟んだ後半は、悲劇へと上り詰めていくにつれて、何だか乗れなくなってしまったのだ。一つには、大竹と田中の演技が自然体なのに対し、白石は表情姿勢声から入念な役作りで、様式に落とし込んだキャラクター表現をしている。これが始めは気にならなかったが次第に気になってしまい、更に、長塚圭史の演劇的、記号的だが深みに乏しい演技もが加わって、少し引き気味になった事は確かだ。

アイルランドの社会と時代の閉塞感が二重三重に映し込まれたシナリオ。テンポよく応酬される悪口雑言。優れた表現者の魅力的なパフォーマンス。実力ある人たちによる魅力的な舞台だが、シナリオを細部にわたって視覚化しすぎているようにも思えた。
ビューティー・クイーン・オブ・リナーン。町一番のべっぴんと呼ばれた娘だが、大竹は野暮ったく、田中はもっと汚れている方が悲劇性は際立つ。全体にもっとストイックな表現が欲しかった。

12月14日(金)ロビーに古田新太がいた。

パルコ劇場
作 マーティン・マクドナー
演出 長塚圭史
出演 大竹しのぶ 白石加代子 田中哲司 長塚圭史

文春ミステリーベスト 海外編

2007年海外部門

順位 作品名        著者        版元   得点
1 ウォッチメイカー  ジェフリー・ディーヴァー  文藝春秋 96
2 復讐はお好き?   カール・ハイアセン     文春文庫 56
3 石のささやき     トマス・H・クック      文春文庫 49
4 双生児       クリストファー・プリースト 早川書房 48
5 TOKYO YEAR ZERO   デイヴィッド・ピース    文藝春秋 47
6 大鴉の啼く冬    アン・クリーヴス    創元推理文庫 42
7 夜愁        サラ・ウォーターズ   創元推理文庫 41
8 終決者たち     マイクル・コナリー   講談社文庫  40
9 ハリウッド警察25時 ジョゼフ・ウォンボー    ポケミス  39
9 ロング・グッドバイ レイモンド・チャンドラー  早川書房 39

週刊文春ミステリーベストとこのミスを比べてみる。
1、2位とTOKYO YEAR ZEROが入っている以外、面子が全く異なる。クック、コナリー、ウォンボーが入っている文春の方が感覚的に納得できる。このミスは本格の占める割合が高いのだ。

出版社としても、どちらにも4冊づつ、延べ5タイトルをランク入りさせた文春の独走ぶりは目覚ましい。ジャック・カーリーも文春だし。2位の「復讐はお好き?」も読んでみたくなった。ウォンボーは発売時に本屋数件でチェックしたが見つからず、以来ポケミス難民として未だに漂泊中だ。

ロング・グッドバイの10位。
この作品はランキングの対象外だろう。古典的作品であり、村上春樹の新訳にして完訳ということが興味の中心だ。評価となれば、作品よりそのものより翻訳に対するってことで、ランキングの趣旨とは折り合わないのではないか。コンペ対象外の特別招待作品とするのが見識ってもんだろう。でなければ無条件1位だ。早川書房のランキングは正しいと思うが、対象外とすればもっとかっこ良かったのに。

2007/12/14

このミス 08 海外篇

1ウォッチメイカー ジェフリー・ディーヴァー文藝春秋 144点
2復讐はお好き?   カール・ハイアセン  文藝春秋 130点
3TOKYO YEAR ZERO デイヴィッド・ピース  文藝春秋 112点
4物しか書けなかった物書き r・トゥーイ 河出書房新社 108点
5悪魔はすぐそこに  D.M.ディヴァイン 東京創元社 79点
6路上の事件   ジョー・ゴアズ      扶桑社 77点
7狂人の部屋      ポール・アルテ   早川書房 70点
7デス・コレクターズ ジャック・カーリイ 文藝春秋 70点
9J・D・カーを読んだ男 ウィリアム・ブリテン 論創社 68点
9目くらましの道上下 ヘニング・マンケル 東京創元社 68点

今年のランキング本で読んでいたのは1.6.7.(デス)の3冊のみ。このミスは1位10点から6位5点で投票された総合点で順位が決まるわけだが、この3冊を参考にランキングを考えてみる。ウォッチ・メイカーについては文句なしの面白さダントツの1位を支持。6.路上の事件と7.デス・コレクターズの得点がウォッチメイカーの約半分ということだが、これは実感とはかけ離れている。路上の事件はもっと下位でいい。
デス・コレクターズはもっと上位に位置する面白さだ。ジャック・カーリーの問題意識と洗練度の高さと新しさに刮目させられる。コストパフォーマンスからも、2095円のウォッチメイカーの1/3、771円という、ランキング中の最低価格ながら、面白さにおいては遜色がないというお値打ち本だ。馬鹿ミスとも言われるが、2作続けて端倪すべからざる力量とセンスの良さを発揮している。コスト優先で行けば完全に1位なのである。ただ、それでもディーバーは1位でいいと思わせるくらいに面白い。

その他の読んだ作品の点数を見ると
終決者たち    43点
ロング・グッドバイ40点
四つの雨     22点
キルン・ピープル 16点
インモラル    14点となる。

終決者たち、は評価低すぎ。キルン・ピープルももっと上だ。しかしハードボイルドは人気ないのね。

2007/12/09

十二月大歌舞伎 夜の部 

菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)寺子屋
着いた時には始まっていて、子供達が奥に引っ込むところだった。海老蔵と勘太郎の夫婦が何やら慌ただしそうにしている。筋がよく判らないが、海老蔵の雰囲気の軽さが気になる。福助登場。空気が豊かに膨らむようだ。品があって美しい。さらに勘三郎が現れる。あたりを払う風格は流石の大きさ。筋もようやく飲み込めてきた。忠義の為に子を差し出す切ない話。熊谷陣屋とか先代萩とかと同工異曲だが、父勘三郎の悲嘆、母福助の絶望が人情のツボにヒットする。名作たる所以なのだな。

粟餅(あわもち)
 三津五郎、橋之助の舞踊。橋之助と並ぶと三津五郎の姿形の美しさがよく分かる。軽妙さも洗練の度合いもより増幅されるように見える。別に橋之助のどこが悪いって事は無いのだが。 

ふるあめりかに袖はぬらさじ
 杉村春子の当たり役を玉三郎が引き継いだ形で上演していたものを、今回歌舞伎として演出されたものだという。尊王攘夷と国が割れた幕末、騒然とした空気が満ちる世の中、遊女の自殺がきっかけで時代の最前線に押し上げられた遊郭に繰り広げられる悲喜劇。
玉三郎は時に杉村春子的な芝居を感じさせるが、余裕と貫禄で主役を演じている。年季の入った芸者にふさわしい立ち居振る舞いは本当に美しく、安定感も充分。加えて、ここでも勘三郎は魅力的。存在感の大きさで舞台が引き締まった。光と影のコントラストを強調したセットも新鮮。中村獅童も良かった。

今日は昼過ぎからずっと遊び惚けてしまった。まともな社会人としては早く帰って明日に備えなければと足早に有楽町をめざしたが、10時になろうかという時刻、晴海通りはまだ宵の口、銀座通りの賑わいにも陰りが無い。タフな街なのだ。 
12月5日

「伊賀越道中双六」沼津の段 国立劇場


5日、半日で早退、午後から国立小劇場「社会人のための文楽観賞教室」。
http://www.ntj.jac.go.jp/cgi-bin/pre/performance_img.cgi?img=2171_1.jpg
歌舞伎はその多くを文楽に負うているということで、文楽にも触れてみたいと思ったが、何をどうしていいか判らない。そんな時にぴったりの初心者向けの企画があったもんだ。人形遣いの名人上手が有名だから、文楽は当然人形が主で語りが従だと思っていたから、自ずから興味も関心も人形の動きにあったのだが、幕が開いて太夫四人三味線三人の演者が一声響かせた瞬間、いやいや、語りの迫力にいきなり全身総毛立つ思い。語りが従などとはとんでもない勘違いだったと思い知らされた。ああ、こういうもんですか文楽って。

「寿柱立万歳」(ことぶきはしらだてまんざい)は三河万歳の祝歌。明るく楽しく歌い踊るショートプログラムで観客を文楽の世界へ軽く導入して幕。
ついで解説コーナーは太夫と三味線の代表が登場。下手な漫才師など軽く凌駕する達者な語りと掛け合いで、それぞれの役割をギャグなどかましながら一通り解説し終わると、更に人形遣いへとバトンをつなぐ。人形遣いのチームが人形の仕掛けや遣い方の基本など面白く見せて文楽の基礎講座終了。
まあ、大人向きのギャグで笑わせる場面もあったが、あえて「社会人のための」とことわりを入れるほどの事も無く、そもそも平日の昼間に文楽の勉強しにくる社会人像って、国立劇場はどんな社会人をイメージしてるのだろうか。

締めくくりは「伊賀越道中双六」沼津の段。もとが荒木又右衛門、鍵屋の辻の仇討ちの大評判を受けて劇化されたものだと解説にある。ふーん。そうなんだ。とはいえ、この段に剣豪は登場しない。義理と因果に絡めとられながら、命がけで人としての筋を通そうとする周辺の人物達の悲劇が描かれる。登場するのは実家に戻った傾城と親兄弟。
人形のリアルな動き。元傾城、年寄り、男盛りと幅のあるキャラクターが、それぞれの存在感、生活感も確かな動作、所作で動く様は確かに生きているよう。三人に操られる人形。その頭の脇には首と右手を操る主遣いの顔。人形と人形遣いが雁首そろえているというのは、何と大胆な演出かとも思うのだ。

しかし、義太夫、清元、長唄、小唄、端唄、邦楽の催眠効果抜群で、ましてや襟を正してお勉強しようなんて柄でもない殊勝な心がけは、身に付かない分すぐ化けの皮も剥がれていつの間にか寝入ってしまった。字幕が出るのは大助かりだが、寄る年波には勝てないのである。全然教養がないので歯が立たないということもある。次回はいつになるか判らないが捲土重来を期して体調気力整えておこうかな、おきたいなと思いつつ、次の予定もあり、早めに退散した

2007/12/08

椿三十郎

オープニングの和太鼓が荘重な響き、というより仰々しいと感じてしまったところからヤバい感じはしていたのだが、始まってみれば織田裕二は、意外なことに思っていたほど悪くない。

黒沢の脚本をそのままに、キャラクター、絵作りまで模写しているので、場面ごとに脳内で再生されるオリジナルのイメージと見比べてしまうような感じになる。なるほどと納得させられながら気持ちがスクリーンに集中していけばよかったが、そうはならなかったのは若侍の集団に対する違和感。加山雄三の松山けんいちはともかく、田中邦衛のそっくりさんは目を剥いて口とんがらせて文句を言う表情がワンパターン。この劣化コピーに次第にイライラがつのって、演出のセンスへの不信が芽生えたら急に眠くなってしまった。
気がつけば最後の決闘が始まっている。エッ、何、どうしたの、普通は10分程度で目が覚めるのに、と戸惑いながら観た決闘はオリジナルとは違う趣向で、なかなか工夫されていた。リメイクというよりコピーという作りの中で、この殺陣は唯一の自己主張とみえた。ほとんど寝てたのによく言うよなのだが、やはり本家の緊迫感、迫力、寂寥感に及ばない。

2007/12/05

ナンバー23

ジョエル・シュマッカー はハズレの少ない職人監督で結構好きなのだ。伝奇風味な予告編にもそそられたし。ただ、ジム・キャリーってところに、期待も不安も感じさせるものがあったわけだが、行く気にさせてくれたのは12月1日、1000円ポッキリ映画の日なのだった。

動物管理局に勤めるウォルターが誕生日祝いに妻から貰った古本。そこには23という数字の謎と自分のこととしか思えぬ告白とが記されていた。著者の正体を突きとめ、謎を明らかにしようとするウォルターに不可解な出来事が頻発する。

歴史上繰り返し登場するという23の謎。メインタイトルになっている割りには雰囲気作り以外の役割はなく、本流は追いつめられる男のサイコなサスペンスなのだった。伝奇と思って見に行ったらサイコだったって面白けりゃ構わないが、これはそんなに面白くない。
ギャグを封印したジム・キャリーンのエキセントリックな演技。ヴァージニア・マドセン意外な良い人振り。役者の好演と見せ方の巧い演出で何とか観られるように仕立て上げてはいるが、脚本の弱さはいかんともし難い。


原題:The Number 23
監督:ジョエル・シューマッカー
製作:ボー・フリン/トリップ・ヴィンソン
脚本:ファーンリー・フィリップス
撮影:ロバート・プレスリー
音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演:ジム・キャリー ヴァージニア・マドセン ローガン・ラーマン 
   ダニー・ヒューストン ローナ・ミトラ リン・コリンズ

2007/12/02

ブレイブワン

突然の悪意と暴力に婚約者は殺され、一人生き残ったエリカ。恐怖と隣り合わせの毎日に手にした護身用の銃に命を救われた挙げ句、エリカは銃を手に悪党の粛正へと乗り出していく。

幸せの絶頂、瀕死の重傷、恐怖に怯え、実行犯となる。変化していく主人公をジョディ・フォスターは、抑制と雄弁を両立させた芝居で精妙に表現し、実に魅力的かつ印象的。怒りと逡巡をユニクロか無印かといったカジュアルファッションに包み、下司野郎に制裁を加える。相手は殺されて当然なやつらばかりとはいえ、ニール・ジョーダンがこの先どんな決着を用意するものか。ジョディ・フォスターなら、結論は反暴力しかなかろうと思いきや、正義感旺盛な刑事が絡んで、終幕は思いがけない展開を見せてくれた。
エッそうなの、そういう事なのと戸惑うほどに意外なエンディング。これじゃ例えば「キャット・ガール」やら「パニッシャー」やらと何ら変わらない。ニール・ジョーダンとジョディ・フォスターという組み合わせからは予想できなかったが、やりたかったのはDCコミックスの映画化だったのかと、トンネルを抜けての向こう側へと歩いていく主人公の背中を見ながら思い至った。ジョディ・フォスターの硬質な美貌に合うエンディングではあるけれど、しかし、こんな簡単な落ちで良かったのか?ジョディ・フォスター。
ウーン、アメリカンなのだ。

原題:The Brave One
監督:ニール・ジョーダン
脚本:ロデリック・テイラー
製作:ジョエル・シルバー、スーザン・ダウニー
撮影:フィリップ・ルースロ
音楽:ダリオ・マリアネッリ
出演:ジョディ・フォスター、テレンス・ハワード、ナビーン・アンドリュース、
2007年アメリカ映画/2時間2分
配給:ワーナー・ブラザース