
アイルランドの荒涼とした丘に建つ一軒家に暮らす親子。底意地悪く頑固な母と、そんな母の介護に花の盛りを捧げた娘。娘の希望は母の絶望。傷つけ合いながら依存せずにはおられない二人の、際どい綱引きの均衡は、保たれるのも破られるのも、己の幸せを求める心の故だった。
水道から水も出ればガスコンロには火がつく。リアルに設えられたリビングキッチンを縦横に動き回る大竹しのぶの娘。ロッキングチェアに凝固したような白石加代子の母。化け物のような変幻自在振りを発揮する2大女優が、母のエゴと娘の被害者意識のドロドロとを激しくぶつけあう。力と技と存在感が火花を散らし、ブラックな笑いが振りまかれ、一層危ない感じを募らせていく。そうそう、こういうガチンコ対決が観たかったのだ。期待に違わぬ白石、大竹の競演。
しかし、休憩を挟んだ後半は、悲劇へと上り詰めていくにつれて、何だか乗れなくなってしまったのだ。一つには、大竹と田中の演技が自然体なのに対し、白石は表情姿勢声から入念な役作りで、様式に落とし込んだキャラクター表現をしている。これが始めは気にならなかったが次第に気になってしまい、更に、長塚圭史の演劇的、記号的だが深みに乏しい演技もが加わって、少し引き気味になった事は確かだ。
アイルランドの社会と時代の閉塞感が二重三重に映し込まれたシナリオ。テンポよく応酬される悪口雑言。優れた表現者の魅力的なパフォーマンス。実力ある人たちによる魅力的な舞台だが、シナリオを細部にわたって視覚化しすぎているようにも思えた。
ビューティー・クイーン・オブ・リナーン。町一番のべっぴんと呼ばれた娘だが、大竹は野暮ったく、田中はもっと汚れている方が悲劇性は際立つ。全体にもっとストイックな表現が欲しかった。
12月14日(金)ロビーに古田新太がいた。
パルコ劇場
作 マーティン・マクドナー
演出 長塚圭史
出演 大竹しのぶ 白石加代子 田中哲司 長塚圭史