
「吸血鬼」というタイトルだった原作を読んだのは何十年も昔の事だが、正常と異常を一瞬に入れ替えてしまう鮮やかなエンディングで、こちらの認識がコペルニクス転回させたられたことは鮮烈に覚えている。チャールトン・ヘストンで映画化された『オメガ・マン」には、つまらなかった記憶しかない。
無人の廃墟と化したニューヨークを迫真的に映す、CGの素晴らし過ぎる映像美。マンハッタンを終末の光景に変えて余すところなく見せ尽くす。これだけでこの作品は見るに値する。ウィル・スミスは深みのある演技で、超絶的な孤独感の中で、規則正しい日常を維持しようとする姿に説得力がある。相手役なしのサバイバルシーンにもドラマ的な奥行きを与えている。主人公が空母イントレピッド上のブラックバードから見事なスイングで摩天楼にドライバーを打ち込むシーンの、ダイナミックかつ詩情に溢れた素晴らしさ。イマジネーションの凄さに感動する。とにかくこの作品のマンハッタンが封鎖される迄もその後もビジュアルが実に魅力的で、実に良くできている。どんな風に作られていったものか、メイキングの DVDが凄く楽しみだ。
しかし、後半はゾンビもののジャンル映画と化していくのがしょうがないと言えばしょうがない。ゾンビ映画もメジャーが作ればこれほどゴージャスになるんだよ、と制作者が自負したかどうか知らないが、前半のワクドキ感も、結局は月並みなアクションホラーに回収されてしまうのだった。バイオハザードと変わらない。いや、それでも面白いから、ジャンル映画と割り切れば良いのだ。
でもね、前半の展開が引き締まって面白かっただけに、後半の安易なゾンビ化と、原作のスケールや苦みにかすりもしないエンディングの月並みが、何だかとっても惜しまれるのだ。
原題:I Am Legend
監督:フランシス・ローレンス
脚本:マーク・プロトセビッチ、アキバ・ゴールズマン
製作:アキバ・ゴールズマン、デビッド・ヘイマン、ジェームズ・ラシター、ニール・H・モリッツ、アーウィン・ストフ
原作:リチャード・マシスン
撮影:アンドリュー・レスニー
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演:ウィル・スミス、サリー・リチャードソン、アリス・ブラガ
2007年アメリカ映画/1時間40分
配給:ワーナー・ブラザース映画