明治32年、サンフランシスコから全米巡業の途についた川上音二郎一座。
悪戦苦闘の公演を続けるがマネージャーが金を持ち逃げ、やっとたどり着いたボストンで座員も分裂、一座は進退窮まってしまう。そこで「ヴェニスの商人」の日本語上演という奇策を思いつき、何とかペテンで切り抜けようと奮闘する音二郎一行を描いた三谷幸喜の新作。
本邦初の「女優」誕生の経緯も絡めて、シアタークリエのこけら落としとは、ユースケ・サンタマリアと常盤貴子の初舞台コンビ。脇を実力と個性のベテランががっちり固めて楽しく華やかな娯楽作。
はったりを利かせた興行師でもある川上音二郎というキャラはユースケの柄。座長公演で役柄も座長というポジションだけに出番は多いが、明るく前向きな良い人というだけで柄を強調することもなく特段の見せ場も無い。
それに対して、声をからして八面六臂の大活躍を見せる堺正章。勢いの良さに若々しさが爆発する堀内敬子。瞬発力を三次元に炸裂させた阿南健治。達者なコメディエンヌ振りの瀬戸カトリーヌ。徒で伝法なキャラに思いがけない陰影を刻んだ戸田恵子等、他の人たちにはここぞという場面がもれなく用意され、それぞれが気持ち良さそうに演じ魅力を発揮している。
苦しい公演を何とか成功させた音二郎に妻が言う。
「あなたがここ迄みんなを引っ張って来たんじゃない。みんなに引っ張られてあなたはここ迄来れたのよ」
アクの強さが持ち味のユースケが意外に大人しく、これと言った見せ場が無いのは、どんなカリスマがいようとも、カンパニーはアンサンブル命なのだと、このテーマがあればこそかと納得した。
バラエティーともボードビルとも言えるノリと展開で楽しませながら大型喜劇として締めくくる。興行師にも役者にも観客にも旺盛なサービス精神を等しく発揮した三谷幸喜の力作。もっと刈り込んだ方がすっきりしそうな所もあるが、シアタークリエの杮落としとして求められる要素を十二分に満たしたご祝儀な作劇術としての見応えも大きかった。
出演 ユースケ・サンタマリア、常盤貴子、戸田恵子 、 堺雅人、堺正章他
作・演出 三谷幸喜
シアタークリエ
12/23 13列5
芸術座改めシアタークリエって事で、帝劇と並ぶ東宝のフラッグシップとも言える劇場は最新の技術と思想でどれほど素晴らしく生まれ変わったものかと、小屋そのものへの興味と期待感が大きかったのだが、今時こんな空間処理かと思わせる狭苦しさには失望するより驚きだった。ロビー、通路、シート、トイレのどこをとって狭苦しい。余裕がない。最悪である。
演劇を単に金儲けの手段としても構わないが、金儲けにしても、もっと気持ちよく、沢山お金を使わせるための哲学なり戦略があればまだしも、そんなものはみじんも感じさせない内部空間。休憩時間に女性用トイレから伸びた行列の異常な長さも12000円のチケ代に相応しからざる異様な光景。地下2階から地上へと、火でも出ようものならまず逃げられないと思わせる階段の狭さにも、東宝の性根の悪さ、体質が伺われる。東宝映画、日劇、東宝名人会、昔の東宝は都会的で洗練されたイメージだったが、このクリエは北朝鮮並みではないか。ほんとがっかりである。