2006/12/11

硫黄島からの手紙


硫黄島を巡る日米の攻防を描いた2部作の後半。

米の上陸部隊は浜辺の塹壕で迎え撃つべしとする参謀。それは無謀とすり鉢山にトンネル掘りを命じる司令。大和魂と教条主義の将校たちと理知と合理の栗林中将との狭間で翻弄される兵卒達の姿。透徹したカメラが描き出す抗戦準備から壊滅へと至る日本軍の内実。

運命に引き寄せられるように、硫黄島に集まってきた人々のエピソードを積み上げる前半の静かな展開。ここがなんの変哲も無いような流れだが、よく 整理され、わかりやすく、実に良くできている。渡辺栗林、内藤バロン西を差し置いて、二宮召集兵が庶民代表する重責を担い、それにいい芝居で応えている。 特に目の表情がいい。白目の割合が印象的なのだ。

淡々と流れた前半が戦闘機の襲来で破られる。ここからの切り替えが凄い。戦闘機の機銃掃射と爆撃のリアリズム。後は戦闘による修羅場の連続で消耗 戦へと突入していく。鬼気迫る場面がいくつもある。酷い行いも描かれる。愚かな行いも描かれる。酷い行為と崇高な行為が等しく描かれる。それは日本軍でも 米軍もなく、どんな酷い事も平気で行えるのが人間なのだとばかりに描かれていく。

日本人の誰よりも、クリント・イーストウッドは日本人をきちんと描いているように見える。全篇ほぼ日本語だけで成り立っているこの作品を、日本語 のしゃべれない76歳のアメリカ人監督が撮ったというだけで、これは奇跡だ。しかもこんな素直な気持ちで受け止める事ができる作品としてなのだ。有り体に 言えば、トム・クルーズでは到底見いだし得なかった本物のラストサムライの姿が、イーストウッドには明瞭に見えたという事でもある。

冒頭にさる高名な政治家の名前が登場する。それは今の時代に一直線に通じた名前でもあって、歴史の面白さが感じられた。結局のところ、政治とは人 が人を支配することが目的なのであって、国民の幸せなんて事は実に単なる題目にすぎない。要は、支配しようとする力を増大させないようにする事が、選挙権 を持つ人間が最低限果たすべき努めなんではなかろーか。今の時代、いい政治家選ばなきゃだめだとつくづく思うのだ。

原題:Letters from Iwo Jima
製作・監督:クリント・イーストウッド
製作:スティーブン・スピルバーグ、ロバート・ローレンツ
原案・製作総指揮:ポール・ハギス
脚本:アイリス・ヤマシタ
撮影:トム・スターン
音楽:カイル・イーストウッド、マイケル・スティーブンス
出演:渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、裕木奈江、中村獅童
2006年アメリカ映画/2時間21分
配給:ワーナー・ブラザース映画

2006/12/10

カジノ・ロワイヤル


簡潔にしてショッキング。身の引き締まるようなプロローグに洒落れた落ちでタイトルにつなげる。007といえばメインタイトルってくらい、毎回手を替え品を替え楽しませてくれる企画もの、今回もまた、洗練はそのまま、しかしリニューアル感たっぷりに楽しませてくれる。

これ迄とは違うものを見せましょうという作り手の構えがビシビシくる気分の盛り上がりそのままに本編突入。ここから一気に盛 り上がるアクションが凄かった。SF的な小道具に頼った007的荒唐無稽見せ物アクションとは一線を画したリアルな状況設定。そこに体を張った信じられな い殺陣、その破天荒な技の組み立てが連続する凄い展開。もう、驚き呆れ感じ入ってスクリーンに釘付け。近来出色の超絶アクションに大満足。幕開けからテン ポの良さとこの隙のなさ。新生007の気迫にすっかり取り込まれてしまった。

ダニエル・クレイグはここ迄の芝居らしい芝居の無いアクションだけで、向こう見ずで跳ねっ返りな新らしいボンドらしさを主張しているのには感心した。脚本と演出と役者の息がピッタリなのだ。以下、随所に新しさを感じ させる演出で快調に飛ばしていく。要所要所にはシリーズの伝統を踏まえた、ことに、シリーズの方向を決定づけた、殺しの番号、危機一発、ゴールドフィン ガー、サンダーボールへのリスペクト、オマージュと見えるシーンを多発させながらどんどん気分をを盛り上げる。実にどうも、憎い手口で好感がどんどん増していく。

エバ・グリーンも、ノーメイクとメイクとの表情の落差がキャラに深みを加えて、歴代ボンドガールの上位にランキングされるクールビューティー振り。血の涙のル・シッフルも、冷血ななかに哀感が滲む深みのある敵役で印象的。ダニエ ル・クレイグの起用が意外にも効果的だったのは、ジュディ・デンチかっこ良くみえるようになったこと。

現代の国際経済、テロリズム渦巻く世界に、冷戦の 時代のおとし子が復活し、ハードにクールに暴れまくる。プロローグからエピローグ迄、新生007の格好良さをぎっしりと詰め込んで、あらゆる角度から見て大成功の快作。ハイセンス、ハイレベルなリニューアルにカンパイなのである。

原題:Casino Royale
監督:マーティン・キャンベル
製作:バーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソン
脚本:ポール・ハギス、ロバート・ウェイド、ニール・パービス
原作:イアン・フレミング
撮影:フィル・メヒュー
音楽:デビッド・アーノルド
出演:ダニエル・クレイグ、エバ・グリーン、マッツ・ミケルセン、ジェフリー・ライト、ジャンカルロ・ジャンニーニ、ジュディ・デンチ
2006年イギリス=アメリカ=チェコ合作/2時間24分
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

プラダを来た悪魔  


プラダを来た悪魔

秀逸なタイトル。その気にさせるキャスティング。確かにね、スプラッターやホラーでは描けない怖さ。メリル・ストリープの悪魔、見たいです。配給会社のポイント。券買いました。

流石です。ミスメリル・ストリープ。期待を裏切らぬ押し出し、風格と存在感。一方造作の大きなファニーフェースのアン・ハサウェイも、若さと人柄の良さで負けてはいない。 この主役二人と周囲の人たちのコスプレだけでそこそこ楽しめる。

お話は意外と他愛なく、新人をいたぶる悪魔というわりに、ステーキや航空券を手配しろだの、発売前のハリーポッターを手に入れてこいだの、その要求がセコいというか、編集やファッションとは何の関係もない雑用ばかりでビジネスというのもおこがましいようなもんだが、メリル・ストリープが言うと、大事な修業の一過程、最もな要求に見えてくる。貫禄ってもんだが、何分にも表面的。ファッションデザインや雑誌編集など、お仕事そのものの魅力や面白さが描かれていたらもっとよかったのに。

監]デビッド・フランケル
[原]ローレン・ワイズバーガー
[衣]パトリシア・フィールド
[出]メリル・ストリープ アン・ハサウェイ エミリー・ブラント
[配給会社] 2006米/FOX
[上映時間] 110分


イルマーレ

引っ越しをした女性が、次の住人宛のメッセージを郵便受けに入れたら、不思議なことにその郵便受けは2年前に通じていた。という韓国映画のリメイ ク。つまらなくは無かったが、今更キアヌ・リーブスとソンドラ・ブロックが出たがるような話とも思えなかった。せっかくの不思議なポスト、ラブレターなん かやり取りするより、競馬や株の情報やり取りして一儲けすりゃ良いのにと気持ちが別方向にそれてしまった。

監督 アレハンドロ・アグレスティ
出演 キアヌ・リーブス サンドラ・ブロック 


トリスタンとイゾルデ

これは思わぬ拾い物だった。
アイルランド、イングランドを舞台に展開する悲恋物語。
ホレ薬を使わない現代的な脚本。荒涼としたアイルランド沿岸部の風景。冷酷無比な王様。説得力ある面構えの侵略者たち。リアルでハードなチャンバラ。シックで品位ある花嫁衣装。若く美しい主役二人の甘美と苦悩に満ちた愛の行方。
見所満載の秀作。

製作年度 2006年
上映時間 125分
監督 ケヴィン・レイノルズ
製作 リドリー・スコット   
出演 ジェームズ・フランコ 、ソフィア・マイルズ


アダム -神の使い 悪魔の子-

遺伝子操作でクローン人間を作る医師が、最愛の息子を亡くした傷心の夫婦に息子の再生を囁く。そうして作り出された子供にあるときから異変が。フランケンシュタインとペットセメタリーを合わせたようなお話。
ロバート・デニーロとレベッカ・ローミン・スティモス。ネームバリューはあるが中身はない。マーティン・スコセッシの作品に出なくなったロバート・デニーロと黒沢作品に出なくなった三船敏郎は、どちらも変な映画によく出てるって点で、よく似ている。

製作年度 2004年
上映時間 102分
監督 ニック・ハム
出演 グレッグ・キニア 、レベッカ・ローミン=ステイモス 、
   ロバート・デ・ニーロ 、キャメロン・ブライト


 デス・ノート

前編では藤原竜也が良かったが、後編は松山ケンイチのもの。しかしお菓子ばかり食べているのを見ていて気持ちが悪くなった。アイドルの女の子が魅 力に乏しいのは問題あり。お話は原作にほぼ忠実な展開らしいが、お話は結局小さくまとまってしまった。もっと倫理、哲学に踏み込んで欲しかった気分。

[監]金子修介
[原]大場つぐみ 小畑健
[出]藤原竜也 松山ケンイチ 戸田恵梨香 片瀬那奈 マギー
  上原さくら 津川雅彦 中村獅童 藤村俊二 鹿賀丈史