2009/05/25

ウォーロード/男たちの誓い


清朝末期に勃発した太平天国の乱。敗戦を生きのびたジェット・リーは、アンディ・ラウと金城武兄弟率いる盗賊の群れに救われる。立身を望む兄弟と捲土重来を期する男の思惑が一致し、義兄弟の契りを交わした三人は、溢れる野望を胸に戦乱の世に打って出る。

理想主義が戦いの中で泥にまみれ潰えて行くというお話は、本や映画に繰り返し描かれる普遍的なものだし、「アラビアのロレンス」を筆頭に名作、傑作も数多い。この作品では義兄弟の3人、ジェット・リーの陰性にアンディ・ラウの陽性が対比され、そこに純粋、純情の金城武が絡みつくという具合に、それぞれの役者がはまり過ぎなほどにクッキリと個性が描き分けられ、彼らの行動によって物語が動いていく有様が説得的に描かれる。なかでも、許されぬ恋に苦悶する男を抑制された演技で見せたジェット・リーが泣かせる。相手役の女優さんの哀感もいい。このパートの豊潤さは魅力的。隅々まで神経の行き届いた仕事ぶりで、先行する優れた作品にも比肩する面白さを見せつける。ダイナミックなカメラワークと映像の美しさは特筆もの。この監督は力があるなぁ。

「バビロンA・D」を観に行ったついでに、ロスタイム無しに上映が始まるからというだけでチケを買った。予備知識はもとより、この作品の存在すら知らずにまったく期待も無かった分、その思いがけない面白さにはビックリもし、興奮もした。家に帰ってググって見れば、何でも香港台湾の映画賞総なめにしたとある。さもありなん。「レッド・クリフ」の一大プロモーションの影に隠れるようなタイミングでの公開は誠にもったいない。傑作。


原題:投名状
監督:ピーター・チャン

製作:アンドレ・モーガン、ホアン・チェンシン、ピーター・チャン

脚本:スー・ラン、チュン・ティンナム、オーブリー・ラム

撮影:アーサー・ウォン

美術:イー・チェンチョウ、ペーター・ウォン、イー・チュンマン

編集:クリストファー・ブランデン

音楽:ピーター・カム、チャン・クォンウィン、チャッチャン・ポンプラパーン、レオン・コー
出演:ジェット・リー、アンディ・ラウ、金城武、シュー・ジンレイ

製作国:2008年香港・中国合作映画

上映時間:1時間53分

配給:ブロードメディア・スタジオ

2009/05/01

レイン・フォール/雨の牙

都内全域に張り巡らされた監視カメラに映る暗殺者。ずらりと並んだモニターを前にしたCIAの東京支局長は名うての殺し屋を捉えるべく、やたらハイテンションで局員に激を飛ばす。より正確には口角泡を飛ばして怒鳴りまくるのである。スルリ、スルリと躱してゆく孤高の暗殺者ジョン・レイン。
なるほど、こりゃジェイソン・ボーンをやりたいのだなと了解した。しかし、支局長が何をそんなに大騒ぎしているのかがとんと伝わってこない。ゲイリー・オールドマンの熱演が痛々しいのである。柄本明の刑事も柄本明に頼りすぎたキャラだし、椎名桔平の暗殺者はヤバい雰囲気発散させ過ぎで全然プロらしくないのである。ヒロインの長谷川京子に至っては可哀相な事に、ほとんど馬鹿にしか見えないのである。どの人物もきちんと造形されていず、当然のようにストーリーは破綻している。とても格好悪い脚本を、やたら格好良く凝った映像で見せられるのだが、却って空虚さが増すばかり。ゲイリー・オールドマンと柄本明という名優をもってしても、この粉飾感は消し難く、まこと映画とは監督のものなのだった。

劇中、極秘データが入った「メモリースティック」が出てきて、それはどう見てもごく普通のUSBメモリーなのだが登場人物の誰もが、再三再四「メモリースティック」を連呼する。見ている時はとても違和感があったのだが、配給会社名に気がついて納得した。

監督・脚本:マックス・マニックス
原作:バリー・アイスラー
撮影:ジャック・ワーレハム
美術:山崎秀満
編集:マット・ベネット
音楽:川井憲次
出演:椎名桔平、長谷川京子、ゲイリー・オールドマン、柄本明、清水美沙
2009年:1時間51分
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント