2008/07/30

インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国

クロムメッキのホイールがキラキラ光るコンバーティブルにアメリカングラフティ気分が横溢したオープニング。プレスリーや「波止場」のマーロン・ブランドに懐旧趣向の楽しさちりばめている。齢を重ねたインディーが登場し、衰えは隠せぬものの、骨惜しみせぬ体技。スピーディーなアクションを見せつけて流石なのだ。聞くだけでその気にさせるテーマ音楽に相応しい明るさと勢いで押しまくる前半の図書館までの展開は申し分ない面白さ。

後半はクリスタル・スカルの謎を求めて南米各地を転戦。ま、今回はトンデモ系の謎ということもあり、謎の解明は随分いい加減だ。その代わり、アクション場面の大増量で全体のバランスを取ろうとしているようだ。シャイア・ラブーフが活劇方面を一手に引き受ける活躍を見せている。今や隠れも無い大物女優となったケイト・ブランシェットの贅沢な使い方も印象的で、本人もそれを楽しんでやっている感じが好ましい。話が進むにつれ、アトラクションムービー度が増して、ジャングルを失踪する車上でのチャンバラなどパイレーツ・オブ・カリビアン2の二番煎じのように見えたが、それはそれとして、謎の解明にこのシリーズらしい伝奇色が薄まってしまったのは残念な気がした。

ラストシーンは、この素材でこの流れだったらこうなるよなぁ、と納得の展開なのだが、
50年代をノスタルジックに振り返ることにあれだけ拘るなら、最後はあんなデザインでなく、当然アダムスキー型ではないか。あそこに銀色に輝くアダムスキー型が浮上したら、最高にロマンティックだったのになぁ。実に残念。

原題:Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:デビッド・コープ
製作総指揮:ジョージ・ルーカス、キャスリーン・ケネディ
製作:フランク・マーシャル、デニス・L・スチュワート
撮影:ヤヌス・カミンスキー
音楽:ジョン・ウィリアムズ
美術:ガイ・ディアス
原案:ジョージ・ルーカス、ジェフ・ネイサンソン
出演:ハリソン・フォード、ケイト・ブランシェット、シャイア・ラブーフ、カレン・アレン、レイ・ウィンストン、ジョン・ハート、ジム・ブロードベント
2008年アメリカ映画

2008/07/29

崖の上のポニョ

これは川端康成に於ける「眠れる美女」。谷崎に於ける「鍵」ともいうべき作品。ポテンシャルの低下と残り時間の短さを自覚した年寄りが、自分の好きなことだけをやりたい放題やったプライベートフィルムとしてみれば、理屈もきれいごとも取っ払い、少女フェチに邁進しきった宮崎駿の面目躍如といった面白さがある。ただし、フェチを耽美に止揚できぬまま自爆したような中途半端さはいただけない。

子供向けとしてみても、わがまま通して道理引っ込める子供至上の展開をはじめ、いたいけな子供等に種々間違った価値観を刷り込むだろう場面の多さは気になる。対象年齢は12歳以上が妥当。犠牲の尊さに触れられていないのも底が浅い。もう辛い話は描きたくない気持ちが強いのかもしてないが、おとぎ話、ファンタジーとはいえ、ハッピーエンドにも程がある。

流石に絵は良く動く。イマジネーションに溢れたダイナミックな映像は相変わらず凄みがある。背景画がペイントでなく色鉛筆系のドローイングで描かれているのも、短編では珍しくないが劇場用の長編では新鮮に映る。崖の草などとても美しかった。最後はそうすけが魚になれば作品全体がキリっと引き締まったのに。

監督・脚本・原作:宮崎駿
製作:鈴木敏夫
音楽:久石譲
美術:吉田昇
2008年 1時間41分
配給:東宝

2008/07/24

ザ・マジックアワー

エンドロールで流れる、セットが完成するまでを早送りする映像が面白い。実際に良くデザインされたセットで、空間の密度が高く独特の雰囲気が漂っている。マルセイユの裏通り(いったこと無いが)を思わせるようなだが、その分、他の場面か浮いてしまう感もある。

佐藤浩市に田舎芝居、西田敏行に抑えた演技、妻夫木にいい加減な男、深津絵里にヴァンプと、意外性で鮮度の高いキャラクター作りの狙いはいいが、妻夫木と深津絵里はしっくりこないのである。例えば、ジャック・レモンとウォルター・マッソー、ポール・ニューマンにはロバート・レドフォード、高倉健なら池部良、やすしにはきよしなのである。

佐藤浩市をペテンにかけ、そのうえ西田敏行までもコントロールしなければいけないのである。妻夫木君には荷が重すぎる。バランスが悪いのである。深津絵里も海千山千の親分手玉に取るには柔軟さに欠けるのである。ここは、深津絵里を鈴木京香、妻夫木を香川照之で良かったのではないか、などど妄想してしまうのだ。

亀治郎の登場には笑った。何と懐かしい柳沢真一、だが懐かしさ以上に谷原章介と良く似ているのに驚いた。市村萬次郎の会計士ともども、三谷ならではの素晴らしいキャスティングセンスに感心する。ビリー・ワイルダーの粋、ハワード・ホークスの色気には未だしだが、日本ではなかなか成立し難い大人の都会派コメディーに挑戦し続ける三谷の健闘を讃えつつ、次に期待しよう。

監督・脚本:三谷幸喜
製作:亀山千広、島谷能成
撮影:山本英夫
音楽:荻野清子
美術:種田陽平
出演:佐藤浩市、妻夫木聡、深津絵里、綾瀬はるか、西田敏行、小日向文世、寺島進、戸田恵子、伊吹吾郎、浅野和之、市村萬次郎、柳澤愼一、香川照之、甲本雅裕、近藤芳正、梶原善、阿南健治、榎木兵衛、堀部圭亮、山本耕史、市川亀治郎、市川崑、中井貴一、鈴木京香、谷原章介、寺脇康文、天海祐希、唐沢寿明
2008年 2時間16分
配給:東宝

道元の冒険 シアター・コクーン

親鸞、道元等、新仏教の台頭に既成勢力の延暦寺は危機感を深めている。道元も苦難を覚悟し、弟子達を戒めているが、近頃どういうわけか婦女暴行の罪で囚われた男の夢ばかり見る。折しも、弟子達が開山記念に奉納する「道元禅師半生記」を前に、悟りを極めた自分と婦女暴行犯の意識の狭間に漂い出る。

劇中劇「道元禅師半生記」がその時代と道元の果たした役割を分かりやすく、面白く提示し、曹洞宗に対する理解が一挙に深まったような気分に。作者の独壇場ともいえる言葉遊び。鋭い風刺が心地よいリズム、快適なテンポで放たれる。役者達が早変わりと体技で何役も演じ分ける様は、簡潔で無駄がない。随所で繰り広げられる歌と踊りも、出演者達の共感度が深くいい感じだ。

阿部寛は立っても座っても品と迫力がある。北村有起哉の明るくスポーティーな道元が楽しい。木場勝己の重々しさが苦手なのだが、今回の軽さは良かった。場面転換は洗練され速度もあって気持ちがよい。前半を締めくくる、船が中国へと向かう場面のイマジネーション豊かな処理が素晴らしい。

そして何より、楽しませ、感化する、井上ひさしの脚本が見事だ。元々は上演するに6、7時間は必要という膨大な、体力気力横溢し、コントロールしきれないぐらいの勢いで若さが爆発した作品だったらしい。初演から37年、今回の改作との違いは分からないが、ちりばめられた伏線が見事に回収され、謎が解けてテーマがくっきりと立ち上がるエキサイティングな作劇。据えっぱなしだった舞台背景の意味に改めて気付かされる快感もうれしかった。この作品をリードしたのが75歳になろうとする作家と演出家だということにも改めて驚かされる。刺激的な舞台。客席に大竹しのぶ。


脚本 井上ひさし
演出 蜷川幸雄
出演 阿部寛 / 栗山千明 / 北村有起哉 / 横山めぐみ / 高橋洋 / 大石継太 / 片岡サチ / 池谷のぶえ / 神保共子 / 木場勝己 他
 2008/7/23(水)13:00

2008/07/20

SHINKANSEN☆RX(新感線☆RX)『五右衛門ロック』

10年以上前、子供達が小学生だった頃、「ピーター・パン」を観に来て以来の新宿コマ。今回、新感線がコマのどでかい空間をどう料理するか楽しみに出かけた。

釜茹での刑を逃れた石川五右衛門は手下共と国外へ出奔。しかし嵐で船は難破。流れ着いた先は欧州列強が虎視眈々と狙う結晶石を産出する宝の島。そこはダースベーダーのような男が君臨する難攻不落の島でもあった。というようなストーリーだが、北大路と森山未來のダースベーダ対ルーク的な親子の確執を軸に、古田と江口のルパンと銭形のような追っかけに松雪泰子が峰不二子的な華を添え、濱田マリと橋本じゅんがシェークスピアな陰謀史観で笑わせるというにぎやかな展開。

コマのステージに細かい芝居は不向きで、その分派手な音響とスペキュタキュラーなパフォーマンスでよりスケールアップしたステージにとの狙いは、派手さに魅力と説得力を与えるキャスティングともあいまって、豪華さも様になっている。それにつけても、松雪泰子、江口洋介など花形役者のオーラ、存在感の素晴らしさ、姿形の良さだけで空間を支えているのは流石で、更にその上をいく北大路欣也の、登場しただけで劇場全体を支配してしまう大きさはまったく大したもんなのだった。森山未來は何時もながら力一杯の頑張りだがメタル・マクベスの時より余裕が感じられた。人間の器が小さい夫をけなすのでなく、その小ささが好きと歌う濱田マリは可笑しくて、キュートさも魅力的。

派手でエネルギッシュ。何でもありのにぎやかな舞台は、その昔の「雲の上団五郎一座」を思わせる楽しさ。豪華な客演陣を鷹揚に受け止める古田新太、その自信と色気にカーテンコールの熱気も更に上昇して、余裕の座長芝居なのである。

【作】中島かずき
【演出】いのうえひでのり 
【出演】古田新太//森山未來/江口洋介/川平慈英/濱田マリ/橋本じゅん/高田聖子/粟根まこと/北大路欣也/他

クライマーズ・ハイ

スピード・レーサーでスカッと楽しもうかと思ったが予定変更。重い映画は嫌なのだが、時間の都合で仕方ない。日航123便が群馬県に墜落。群馬の地方紙・北関東新聞社の全権デスクに任命された悠木は、混乱を増してゆく状況の中、報道の使命と地方紙の存在意義を賭け、硬派な編集方針を貫こうとするが社内の軟派勢力も黙っていない。

未曾有の航空機事故。新聞報道の現場でどのような葛藤が繰り広げられたか。編集、営業、幹部に遊軍。仕事をする男達が魅力的に活写されてとても面白い。主演の堤真一と堺雅人が良い。更に、脇を固める遠藤憲一、でんでん、蛍雪次朗、堀部圭亮、マギーが実に素晴らしい演技でキャラクターを掘り下げ、ダイナミックな魅力にあふれた群像劇になっている。遠藤憲一と堤真一の怒鳴り合いが素晴らしい迫力だし、堺雅人が堤真一を睨みつける目付きの鋭さも絵になっている。堀部圭亮の敵役ぶりもアクセントとして効果的だし、蛍雪次朗の臭みも申し分ない。男達の顔つき、表情、台詞ひとつ一つが味わい深い。スクープに邁進する女性記者もキャラがしっかり立ち上がった。
日本の俳優は、男は兵隊、女は娼婦をやればみんな上手い、てなことを聞いた事がある。その言葉通り、北関東新聞社の編集会議も帝国陸軍の作戦会議のように、あるいは組事務所のように見えてくるような気配もあるが、善い男も悪い男も「男」がこれだけ格好良く描かれた映画も最近珍しいのではないか。

あか抜けないというよりダサイ、メタリックな英字のメインタイトルがスライドインして来た時には、嫌な予感がしたが、他にはそのような恥ずかしさをもよおす箇所はなく安心した。山崎努の描き方。堤真一のキャラとエンディング。スリリングな展開を抑制する構成、編集のテクなどハリウッド風味な演出も、全体の湿度を下げてドラマに落ち着きと深みを与える技ありの1本。見応えある秀作。

監督:原田眞人
脚本:加藤正人、成島出、原田眞人
製作:若杉正明
原作:横山秀夫
撮影:小林元
音楽:村松崇継
出演:堤真一、堺雅人、小澤征悦、田口トモロヲ、堀部圭亮、マギー、尾野真千子、でんでん、矢島健一、皆川猿時、野波麻帆、西田尚美、遠藤憲一、中村育二、蛍雪次朗、高嶋政宏、山崎努
2008年/2時間25分
配給:東映、ギャガ・コミュニケーションズ

2008/07/07

フランスが夢見た日本-陶器に写した北斎、広重

井上雄彦展 (上野の森美術館)
最終日前日の5日(土)午後、愚息1号と出かけた。しかし、入場整理券の配布は午前中で終了でいくら並ぼうと入場叶わぬと知らされ、あえなく頓挫。そのようなシステムだったとは知らなんだ。長蛇の列を前に己の不明とドジ加減を呪った。行く当てを無くし、上野の山で途方にくれた。西洋美術館でコロー展が始まったばかりだが、気がのならない。三秒迷って国立博物館に向かう。

特別展「フランスが夢見た日本-陶器に写した北斎、広重」を観る。
19世紀後半、ジャポニズム華やかなりしフランスで浮世絵の絵柄を元にして作られた高級食器の数々。その原画を丹念に掘り起こして対照展示してある。北斎漫画などを手本にしたルソーセットのプリミティブな味わい。浮世絵をそのまま描きだしたかのランベールセットのモダン。フランスが発見した日本の魅力を教えられる妙な感じが新鮮で面白かった。武蔵が駄目ならせめて刀でも拝んでこようかと常設の展示へ。日本刀のコレクションを観る。冴え冴えと輝く刃と緊張感漲る刀身の反り。観るうちに畏敬の念が生じ、次第に気持ちも鎮まってくる。日本文化の洗練を深く感じる。

武蔵もだが、歌舞伎座7月昼の部、買おうとしたら既に完売。2500円の席がヤフオクで10000円でも落とせなかった。武蔵も義経も凄い人気なのである。