2009/08/24

96時間


娘がパリで拉致誘拐されたと知った父親はLAからパリに直行。アウェーの不利などものともせず娘の足跡をたどり、怒濤のガブリ寄りで犯人を追い詰め過激に制裁を加えていく。

その昔、産まれたての娘を前に「この娘は絶対嫁にやらん」と宣言した友人。もう四半世紀も前の話だが、娘を持った男親の気持ちってのはそういうもんかと印象に残っている。そんなわけで、娘を奪われた父親リーアム・ニーソンの心中も察するにあまりあるわけだが、この父親が心技体鍛え上げた手練の元工作員だったから犯人達はさあ大変というお話。

高度な特殊技能を身につけた特殊な父親が憤怒の河を渡った向こう岸でおっぱじめた無制限1本勝負のデスマッチ。先手必勝で勝ちにいくリーアム・ニーソンが「破れ傘刀舟」も青ざめるような問答無用のバイオレンスでガンガン突っ走るのである。しかしま、子を持つ親としたらやりたくなるでしょあれくらい、などとこちらも納得してしまうもんだから、余計にオヤジのバイオレンスが気持ち良い。エスカレートしても、さらに、ことごとく気持ち良くなっていく。それも脳内麻薬が順調に分泌される気持ち良さというか、実に生理的なもので、今時この快感はヤバいだろうというぐらいスカッとするのである。

内容的にはピーチ姫を救けにいくマリオという一直線なものだが、観客がこの暴走を十二分に楽しむに、これ以上の大義名分は無かろうというぐらい「父親の情」という動機付けには説得力があり、父親にリーアム・ニーソンをキャスティングしたセンスも憎いのである。知性派だが特殊方面でもオビ・ワンの師であり、バット・マンの育ての親でもあるというリーアム・ニーソンの一筋縄でいかない存在感がこの特殊なオヤジにしっかりと生きた血を通わせている。

シンプルでストレートでスピーディーな展開にピリリとスパイスも効いて、しばし残暑忘れさせる快作。

原題:Taken
監督:ピエール・モレル
製作:ピエール・モレル
製作:リュック・ベッソン
脚本:リュック・ベッソン、ロバート・マーク・ケイメン
撮影:ミシェル・アブラモビッチ
美術:フランク・ルブルトン
編集:フレデリック・トラバル
音楽:ナサニエル・メカリー
出演:リーアム・ニーソン、マギー・グレイス、ファムケ・ヤンセン、
2008年フランス1時間33分

2009/08/11

G.I.ジョー


世界中から集めた精鋭達で編成された「G.I.ジョー」に対するは、悪の秘密結社「コブラ」というシンプルで分かりやすい設定は大時代としか言いようが無いが、一昔前なら基本とも古典とも言われて受け止められたこの設定をそんな風に感じてしまう事自体、言ってみれば今が、いかにロマンティックが生き難い時代になってしまったかの証しに他ならないって気もしてくる。

このシンプルな世界観と大時代性に立ってスティーブン・ソマーズ、細かい事は抜きにテンポの良さとアクションの勢いで押しまくる。「ハムナプトラ」シリーズや「ヴァン・ヘルシング」でも充分お馴染みのこの手口に、今回はさらに臆面の無さを発揮して、「スターウォーズ」「007」「Xメン」の各シリーズから設定やらビジュアルやらを、良く言えば引用、もしくはパクリまくっているところなどいっそ潔く、却って好感が持てる。ソマーズ好みともいえるグロテスク趣味が抑えられているのも、これはお子様たちへの配慮だろうが、作品にもプラスに作用している。

パリ市中を加速パワードスーツで走り抜け、町中をめちゃくちゃにぶち壊しまくり、エッフェル塔が倒壊するなど、豊富な見せ場で楽しませてくれる。G.I.ジョーってのは男の子向けのバービーちゃんだと思っていたので、個人名ではなく特殊部隊の名称ってのは意外だった。で、隊員達はジョーズと呼ばれてたのだが、あれはギャグなのかそうじゃないのかと気になってしまった。

真っ先に映し出されるハズブロのロゴが、これはおもちゃのプロモーションだよと宣言しているようだが、おもちゃへの興味関心など無くても大丈夫、おじさん達へも手厚い配慮が行き届いた活劇SFファンタジー。空調の効いた館内で蒸し暑さをうっちゃるにはもってこいの一本。

原題:G.I.Joe: Rise of Cobra

監督:スティーブン・ソマーズ

製作:ロレンツォ・ディ・ボナベンチュラ、ライアン・ゴールドナー、ボブ・ダクセイ

脚本:スチュアート・ビーティー、デビッド・エリオット、ポール・ラベット
撮影:ミッチェル・アムンドセン

音楽:アラン・シルベストリ

時間:2時間2分
2009年アメリカ

2009/08/09

ボルト 3D


悪の秘密結社と戦う少女とスーパードッグの活躍を描いたTVシリーズの主演犬ボルトは、嘘を真実と誤解したまま大きくなってしまったが、飼い主と離ればなれになってしまう。飼い主の元へと帰る為に大陸横断をはじめるボルトの行く先々、厳しい現実が立ちはだかる。

プロローグから一転、猛烈なアクションシーンの開幕。バイクの攻撃にヘリの襲来。追尾するミサイルをかわし、押し寄せる敵にカウンターアタック。イマジネーション豊かな設定にダイナミックな動き。目の覚めるような素晴らしいアクションの連続。テンポの良さと躍動感にあふれた映像が提供してくれる極上の快楽。
 
旅の道連れがハムスターという変更はあっても、基本は名作「三匹荒野を行く」の「奇跡の旅」に次ぐリメイクと言えるだろう。実写からアニメへ、シチュエーションやキャラ設定も新しくなっている。ボルトとネコとハムスターを始め、少女、マネージャー、プロデューサー、ハト達などのキャラクターがいかにもそれらしく造形されて抗しきれない魅力を発散している。特に、鳥頭振りが素晴らしいしハト達がキュート過ぎる魅力。冒険の躍動感を通して描かれる愛と信頼の清々しい味わいも見事に更新されている。

ディズニー傘下に収まったピクサーから、ジョン・ラセターを製作総指揮に迎えたディズニー作品というご祝儀か、「カーズ」のオンボロレッカー車「メータ」が夜の東京でドリフトしまくる短編も3Dで併映。これも楽しかった。それはともかく、「ボルト」はクラシカルなディズニーの価値観とピクサーのモダンが理想的な形に融合したかのような傑作で大いに堪能した。ジョン・ラセター凄い。

3Dは「センター・オブ・ジ・アース」「モンスター対エイリアン」と観たが、3Dの効果を最も活かせるのは実写よりCGアニメだ。「モンスター対エイリアン」も「ボルト」も映画としても面白く、3D映像も完成度が高い。ただ、「ドリーム・ワークス」のアニメはどちらかといえば大人を意識した作りにウエイトが置かれていることが多く、「モンスター対エイリアン」でもマニアックなネタでくすぐるなど一部には受けても、冗長さと紙一重の要素も少なくない。しかし、流石はディズニー作品、近くにいた子供達等は終始一貫画面に集中できていた。

原題:Bolt

監督:クリス・ウィリアムズ、バイロン・ハワード

製作:クラーク・スペンサー

製作総指揮:ジョン・ラセター

脚本:ダン・フォゲルマン、クリス・ウィリアムズ

音楽:ジョン・パウエル
時間:1時間36分
2008年アメリカ