2008/08/31

ハムナプトラ3・ハンコック・クローンウォーズ

ハムナプトラ3
万里の長城の建設現場や動く兵馬俑が見れただけで嬉しい。パターン通りの展開もシリーズならではの楽しさ。冒険伝奇の面白さも、SFに流れたインディー4よりもよほどしっかり味わわせてくれた。2が大味で面白くなかったから期待していなかった分得した気分。

ハンコック
スーパーヒーローたるもの、人品骨格卑しからず知能指数は高く倫理道徳観に優れている。という国際的な了解も虚しく、人品骨格卑しく知能指数は低く倫理道徳観に劣ったハンコック。そんなハンコックに命を助けられた男がハンコックを社会から求めら皆から愛される正しいスーパーヒーロへとプロデュースする。言葉遣いを改め、社交辞令の一つも覚え、ユニフォームに身を固めさせる。このスーパーヒーロー教養講座が結構可笑しい。
前半の快調なコメディータッチに対し、ハンコックが自立して後半はシリアスな展開。ちょっと転調がキツ過ぎるくらいにガラリと雰囲気が変わって、ロマンティックな悲劇性が前面に押し出される。これはこれでなるほどだが、シャレの効いた前半の勢いに較べると弱いかな。でも面白かった。

クローンウォーズ
3Dアニメのスターウォーズ。ジャバ・ザ・ハットの息子の誘拐事件に隠された罠にジェダイたちが絡めとられていくというストーリーもいつもながら暗くて大人向き。アナキンもメースウインドーもパルパティーンも良く似ている。実写版もアニメ版もCG表現は共通なのでビジュアル的には全然OK。アナキンなどヘイデン・クリステンセンよりいい感じのキャラになっている。スターウォーズがあんなに陰惨な話になって行ったのはヘイデン・クリステンセンのせいではないんだけど。今回アニメ用の新キャラ、アソーカはあまり魅力を感じなかったなぁ。

2008/08/24

八月納涼大歌舞伎 三部

一、新歌舞伎十八番の内 紅葉狩(もみじがり)
8月15日だが舞台は秋真っ盛り。一面の紅葉なのである。そこに歩み出る橋之助(平維茂)の何とすっきりときれいな立ち姿。コミカルな従者の高麗蔵、亀蔵が一層引き立てる。平維茂に対するお姫様実は鬼女の勘太郎。これが大した頑張りで好感度大。特に肩入れするわけはないが、時に危なげある舞扇のジャグリングにいつの間にかこちらも力が入って、しくじるなよとついハラハラさせられるスリリングな時間。若い人の一生懸命を舞台と客席が一緒になって支え、いつの間にか見守っている。そんな一体感を生んだ勘太郎は敢闘賞。

びっくりしたのは、お姫様の侍女が素晴らしい踊りをみせたこと。子供の様だが上手い上に色っぽくて独特の雰囲気に目が離せなくなった。とても気になって、隣の御婦人に教えを請うたら、最近中村屋の部屋子になったつるまつさん、中学生。とのこと。うーん、これは今後の成長を見守りたい。二部三部を通して一番印象的だった鶴松くん。

更科姫・戸隠山の鬼女 勘太郎  山神 巳之助  従者右源太 高麗蔵  
同 左源太 亀蔵  侍女野菊 鶴松  腰元岩橋 市蔵 局田毎 家橘 
余吾将軍平維茂 橋之助

二、野田版 愛陀姫(あいだひめ)
野田秀樹が歌劇「アイーダ」を アイーダ=愛陀姫 ラダメス=木村駄目助左衛門 アムネリス=濃姫 と言うセンスで歌舞伎に移植。エジプト王=美濃の斎藤道三というダウンサイズに悲恋という本質が損なわれることはないはずだが、(きむラ ダメスけざえもん)という遊びの名に恥じぬ悲恋を見せようってのが野田版の心意気なんだろう。
コメディー部門をリードするインチキ祈祷師コンビ荏原と細毛の扇雀と福助。一見誰だか分からない念入りなメークの福助の、混乱するほどにテンションが高くなっていくインチキ祈祷師ぶりが可笑しい。この優れたコメディエンヌ振りは福助の美しさを裏付けるものだ。
シリアス部門をリードするのは七之助と橋之助に恋敵の勘三郎。三角関係の行き詰まりと打開が悲恋へと盛り上がるところが、三者ともキャラの立ち具合が今ひとつなのは残念。象や、昇天する魂などビニールの使い方が効果的なぐらいに、恋愛の高揚感にも不足気味だったが、歌劇アイーダをパロディーとして遊び倒した野田版。沢山笑わさせてくれて楽しい納涼の夕べとなった。
朝から晩迄大活躍の勘三郎、並の人ではないが流石に喉にも疲れが感じられるようだった。

濃姫 勘三郎  愛陀姫 七之助  駄目助左衛門 橋之助  高橋 松也
鈴木主水之助 勘太郎  多々木斬蔵  亀蔵  斎藤道三 彌十郎  
祈祷師荏原 扇雀  同 細毛 福助  織田信秀 三津五郎  
2F東5-1 8/15

2008/08/22

八月納涼大歌舞伎 二部

第二部
一、つばくろは帰る(つばくろはかえる)
大工文五郎は、仕事のために京へ上る道中、一人旅の少年に見込まれ道連れとなる。少年は母を訪ねるが、祇園の芸妓となった母は会おうとしない。大工の三津五郎と芸妓の福助でみせる人情話。歌舞伎は健気な子役の使い方が本当に上手い。今回は子役が主役級の活躍で、三津五郎と福助の出会いと別れのほろ苦さ。親離れ子離れの切なさに客席の共感も深くなるわけだが、ちょっと福助泣き過ぎの観があって、その分こちらは乗り遅れた。長い割にドラマ的な盛り上がりが薄かったが、京の四季を様々にみせた背景美術の頑張りが楽しめた。

二、大江山酒呑童子(おおえやましゅてんどうじ)
美術を串田和美が担当している。人形を燃やしたり、エンディングのケレンなどに勘三郎とのコンビらしさが感じられた。鬼退治とはいえ、そこはかとなく漂うおっとりユーモラスな雰囲気も合わせて楽しい舞台だった。

酒呑童子 勘三郎  若狭   福 助  なでしこ 七之助  わらび  松 也  
卜部季武 巳之助  碓井貞光 新 悟  公 時  勘太郎  渡辺綱  亀 蔵
平井保昌 橋之助  源頼光  扇 雀
3F1-19 8/15

2008/08/21

君の身体を変換して見よ展

会場のある東京オペラシティータワー、初めてなのに前に来たような気がする。デジャヴ?、いや、駅からのアプローチが以前行ったことのある白金のプラチナタワーとそっくりだからと思い至った。最近はこの手が流行なのか。 

ピタゴラスイッチでおなじみの佐藤雅彦先生が夏休みの子供達に向けて用意した「君の身体を変換してみよ展」。案内によれば、「人間の身体感覚を刺激して身体の気持ちを考える実験装置ともいえる作品」の展示。とのこと。
くぐる、通す、振る、はねる等、簡単な身体の動きをコンピューターが別の情報に書き換える。その意表をつく変換を遊ぶうちに、身体感覚が拡大し更新されるような気分が沸き上がってくる。これまでに様々に工夫されてきたコンピューターはヒューマン・インターフェース。いっそ自分の身体そのものをインターフェースにこんな遊びはどうでしょう。という感じで、作品というより遊具として親子が楽しそうに興じている。クールでシンプルな表現にユーモアとぬくもりが伝わってくる佐藤雅彦らしさ溢れる仕掛け。もちろん大人でも楽しい。会場のおねえさん達が親切で感じよかったのも高ポイント。

信頼すべき筋から、なるべく午前中早く、出来れば複数で行くべしとの情報を得られたが、本当にそうだ。都合で一人で行ったが、一人じゃつらい遊びもあった。でもそれは作品のせいじゃない、こちらの過剰な自意識のせいなんだけど。

会場のICC(NTTインターコミュニケーション・センター)には、変換してみよ展の他に長期展示の作品がある。いずれもコンピューターと融合し、インターフェースにこだわった、環境的体感的刺激的かつ美しい作品。勉強不足でここは今迄ノーマーク。3階のギャラリーも合わせて、今後は要チェックだ。

2008/08/17

聞いてないとは言わせない J・リーズナー

見渡す限り空と大地が広がるテキサスのど田舎。ヒッチハイクの若い男が仕事を求めて訪れた先は、美貌の中年女性が女手一つで切り盛りする農場だった。

静かなうちに謎めいた導入。簡潔な叙述と展開の早さで苦もなく本の世界に入れた。平和な暮らしに色恋の行方絡め、充分下地が整ったところでバイオレンスに転調。一気に話が動き出す。一瞬に攻守ところが変わるアクション。悪党達の生態やアメリカ中西部の田舎町の描写も魅力的だ。全体に読者の気を逸らさない心遣いと工夫が行き届いて、B級感覚溢れる意外性も小気味良い。無駄を排した語り口に必要十分なスケールを備えたクライムアクション。原題より気の利いた邦題の良さもだが、ピリリと辛口の幕切れもカッコいい。

DUST DEVILS
ジェイムズ・リーズナー 訳:田村義進
2008年 6月15日 発行
ハヤカワミステリ文庫

2008/08/11

ダークナイト

歴史的傑作。

超法規の正義というあり方に矛盾と限界を感じたバットマンは、ゴードン警部と検事ハービー・デントの熱血に後事を託そうとする。しかし、バットマンの矛盾をあざ笑う怪人ジョーカーは、善と悪とは表裏、互いに補完し合って世界は成り立っているのだよと、人々のエゴや独善を抉り出す奇手奇策をつぎつぎに繰り出しゴッサム・シティーを混乱と恐怖に陥れ、バットマンも次第に追いつめられてゆく。

CGの発達が可能にしたアメコミの実写化。次々と登場した新顔に最新の仕様に身を固めたベテラン達。超絶的な能力で目覚ましい活躍を見せる彼らも、時代の波に洗われ曖昧模糊とした善悪の境界上に悩みを深くするようになった。こうした流れの中にリニューアルされた「バットマン・ビギンズ」もバットマン誕生の動機と戦いが原作のコミック的味わいを一掃したリアルさのうちに描かれていた。

そして「ダークナイト」だ。巻頭、水際立った銀行襲撃から、クールなビジュアルと快適なテンポで観客をゴッサムシティーの闇へと一気に引きずり込む。さらに悪との戦いに心身のダメージを深くするバットマンの痛々しい姿を冴え冴えと描き出して、リアルさの追求も筋の通し方も文句無く美しい。

倫理道徳も善も悪もない、やりたいことをやりたいようにやるのだ。シンプルを極めたジョーカーの生き方。ヒース・レジャーの怪演がジョーカーに強烈な魅力と説得力を与えた。我々の裡なるジョーカーが刺激され激しく揺さぶられる一方、バットマンの活躍に我が裡なるバットマンも共振し始める。
ジョーカーがバットマンを苦しめれば、その攻め方の巧みさに快感と不安が生まれる。バットマンがジョーカーを痛めつければ、その一方的な暴力に疑問と同情が生まれる。両者の対立は即、観客自身の心理的葛藤を産み、物語の進行に伴って葛藤は自省へと変化せずにはおかぬよう働きかけてくるせる。そのように観客をコントロールするのは、どんな発想から誰がクリエイトしたものか知らないが独創的な白塗りメイクに負け犬のような哀しい上目遣いを与えたヒース・レジャーだ。あの哀切な眼差しあればこそ、観客は裡なるジョーカーに引導を渡すことができる。中にはバットマンに引導渡す人もいるやも知れず、それくらいヒース・レジャーのジョーカーは人間味溢れて魅力的だ。

パワフルなアクションと満載の見せ場が矢継ぎ早に繰り広げられる娯楽大作でありながら、人間とは何かが思いっきり考察されたキャラクター達が現代を正確に反映したシチュエーションの中に息づいている。重量級の役者達が魅せるドラマは、世界が抱え込んだ病理に真っ向から斬り込んで、これがアメコミヒーローの映画なのかと唖然とするシビアさで観客に問題を突きつけ、しかし、これこそがアメコミヒーローの映画なのだとばかりに、ダイナミックな映像美でグイグイ押してくる。落ちた偶像の真実を知る者の姿にアメコミヒーロー映画としての挟持が鮮やかに刻みこまれたエンディングの余韻も深い。

ミュージカル映画を革新した「ウエスト・サイド物語」。大画面に芸術性を確立した「アラビアのロレンス」。SF映画を革新した「2001年宇宙の旅」「スターウォーズ」これらの作品に比肩する、アメコミ映画の革新「ダークナイト」。洞察に満ちた脚本、聡明な演技、クールな演出に導びかれて隅から隅迄カッコいい怒濤と興奮の2時間半なのだった。



バットポッド、予告で観た時にはあのタイヤでは直進性が強烈すぎてコーナリングは不可能だろうと、不自然さが気になったが、本編を観れば、それを可能にするのがバットマンということで納得した。

原題:The Dark Knight
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:ジョナサン・ノーラン、クリストファー・ノーラン
製作総指揮:ケビン・デ・ラ・ノイ、トーマス・タル、マイケル・E・アスラン
製作:エマ・トーマス、チャールズ・ローブン、クリストファー・ノーラン
撮影:ウォーリー・フィスター
音楽:ハンス・ジマー、ジェームズ・ニュートン・ハワード
美術:ネイサン・クロウリー
原案:クリストファー・ノーラン、デビッド・S・ゴイヤー
出演:クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、ヒース・レジャー、マギー・ギレンホール、アーロン・エッカート、ゲイリー・オールドマン、モーガン・フリーマン、ネスター・カーボネル、キリアン・マーフィ、エリック・ロバーツ、アンソニー・マイケル・ホール
2008年 アメリカ 2時間32分
配給:ワーナー・ブラザース

2008/08/09

ハプニング

「シックス・センス」の大成功を受けて、その後のシャマランは自分のやりたいテーマに拘った仕事を続けている。「アンブレイカブル」「サイン」「ヴィレッジ」「レディー・イン・ザ・ウォーター」と、作家性を反映した独特のクセ球で、ストライクゾーンに入るか否か、どれもきわどいコースを衝いてきた。

演出技術にすぐれ、スリル、サスペンスの醸成も巧みなシャマランの、洗練された語り口に思わず惹き込まれ、この先いったい何処に連れて行かれるものかとワクワクしながらスクリーンをみつめるが、終盤、作品のテーマが浮かび上がるに至って、ワクワクが、何じゃこりゃ感へとスライドしてしまう。「シックスセンス」のサプライズ・エンディングを再び、と期待するほどに裏切られたような気分を抱え込むことになる。新作公開の度にそれが繰り返され、期待された興収も伸びない。最近では制作費も低予算化されてきたように感じる。

しかし、トンデモなテーマをメジャーのテクニックで料理するのがシャマランの本領だ。良質のサスペンスとともに大真面目に訴えてくるトンデモなテーマ。その主張はどちらかと言えばカルトの教祖みたいなこともあるが、言ってることには一理も二理もあり、言い方だって面白い。鮮やかな落ちへの期待は満たされなくても、本当の面白さは「何だこりゃ感」の中にこそあるといった塩梅。商業主義の中で抽象的、観念的なテーマを描いて、興行的にはこれから先も「シックス・センス」のような成功は覚束なかろうが、こういう人が一人ぐらいはいた方がいい。

新作も従来のパターンを踏まえているが、地球に対する人類の罪と罰というスケールの大きいテーマをロードムービーとして展開しているところが新しい。細部の矛盾や見せ場主義のあざとさなど、気になるところも少なくないが、緊張感が一定に維持され、静謐なうちに叙情漂う、雰囲気ある絵作りも流石。画面に侵入してくる禍々しさも緩急の程がいい。


ところで、地球環境に対する問題意識を前提にしていることでは、海からのポニョに対して陸からのハプニングで両方合わせると調度いい。ポニョ性善説とハプニング性悪説という対照的な構図も見えてくる。いずれにせよ明るい未来など見えていないのだ。それを、寝た子を起こすな的配慮で可愛さに逃げたのが宮崎なら、ストレートに提示したのがシャマランてことになる。ポニョ可愛いとかでヒットしてるけど、年寄りの言うこと真に受けちゃ駄目だよ、年寄りは狡猾なんから。

原題:The Happening
監督・脚本:M・ナイト・シャマラン
製作:M・ナイト・シャマラン、サム・マーサー、バリー・メンデル
撮影:タク・フジモト
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
美術:ジェニーン・オッペウォール
出演:マーク・ウォールバーグ、ズーイー・デシャネル、ジョン・レグイザモ、ベティ・バックリー、アシュリン・サンチェス、スペンサー・ブレスリン、ロバート・ベイリー・Jr.
2008年アメリカ
1時間31分

2008/08/06

告別式



好きだったのは、
「おそ松くん」ならハタ坊。
「天才バカボン」ならうなぎいぬ。
「モーレツあ太郎」ならココロのボス。
べしも懐かしい。
つつしんで哀悼の意を表します。

2008/08/02

インクレディブル・ハルク

人体実験による変異で興奮すると超人になってしまうブルース・バナーはブラジルに逃れ、隠遁生活を送っていたが、ついに追手の知るところとなり、特殊部隊に包囲されてしまう。

エドワード・ノートンが隠遁している大スラム街の、不細工な建造物が自己増殖を続けたように山すそから山頂まで隙間無くびっしりと覆い尽くした景観が凄い。ラッセル・クロウの「プルーフ・オブ・ライフ」でも似たような光景が見られたがあれはエクアドルだったし、南米というのは日本人の感覚を遥かに凌駕した世界だとつくづく感じられるが、それはともかく。

アン・リーのハルクに較べ、エドワード・ノートンのハルクは身体的、能力的にはかなりダウンサイジング。アン・リー版が凄すぎたのでダウンサイズといっても超人度に全然不足は無い。エドワード・ノートンは陰影が豊かで大変好ましいハルク振り。どんな時でも、怒りに身を任せたりしないよう、感情をコントロールしようと自ら我慢を強いる。健気というか、まるで唐獅子背負った高倉健さんのようだ。

それどころか、感激の再会を果たした恋人と同衾するのは自然な流れだが、興奮すると緑色の怪物になってしまうと急制動。満足に抱き合うことも出来ないのに笑って我慢する。なんて純情でなんて可哀相なハルク。パワーとエネルギーを制御できないハルク、性的な欲求に捉えられ、それを抑制できずに発作的にいろいろ馬鹿なことをやってしまう男のメタファーだったかと初めて気がついた。

元の体に戻りたいハルクの意向に反し、追手の執拗な攻撃は激しさを増す。戦いがエスカレートし、破壊行為はスケールアップする。しかし派手になるほど何故か面白くない。クライマックスの肉弾相打つ一騎打ちに至っては、どうせCGアニメだしと、覚めた気分になってしまった。とは言えこの作品、一番の魅力は、エドワード・ノートン、ティム・ロス、ウィリアム・ハートと並んだ素晴らしいキャスティングにある。この顔ぶれが醸し出すリアリティーの豊かさ、物語に加わる厚みは申し分ない。特にウィリアム・ハートは格好良さ抜群。こうした重量級の曲者俳優達がアメコミの映画化に挑んだ。その姿だけで、既に充分観るに値する作品になっている。
                                           映画の日 千円
原題:The Incredible Hulk
監督:ルイ・レテリエ
脚本:ザック・ペン
製作総指揮:スタン・リー、デビッド・メイゼル、ジム・バン・ウィック
製作:アビ・アラド、ゲイル・アン・ハード、ケビン・フェイグ
撮影:ピーター・メンシーズ・Jr.
音楽:クレイグ・アームストロング
美術:カーク・M・ペトルッチェリ
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2008年アメリカ 1時間54分
CAST
エドワード・ノートン、リブ・タイラー、ティム・ロス、ウィリアム・ハート、タイ・バーレル、ティム・ブレイク・ネルソン、

2008/08/01

七月大歌舞伎 夜の部

一、夜叉ヶ池(やしゃがいけ)
百合:春猿 白雪姫:笑三郎 晃:段治郎 学円:市川右近黒和尚:猿弥 姥:吉弥   

二、高野聖(こうやひじり)
女:玉三郎  宗朝:海老蔵  薬売:市蔵  次郎:尾上右近  親仁:歌 六

昼は海老蔵&玉三郎の義経千本桜が人気沸騰で発売早々チケット完売だったが夜は余裕だ。泉鏡花の2本立てだって充分魅力的だと思うが、同じ役者でも演目によって随分集客に差が出るもんだ。

夜叉ケ池
春猿がちょっとやつれた感じで妖艶。姿形もだが仕上げは声。まるで女声そのもの。のど仏を通過したとは思えぬ声に驚いた。動きの少ない前半は春猿の美しさが見物だが、後半は笑三郎が舞台に命を吹き込んで場を盛上げる。
「恋には我が身の命もいらぬ」
「命のために恋はすてない」
「妬ましいが、羨ましい、おとなしゅうしてあやかろうな」
姫君の泣かせる名台詞
奔放で一途だが素直で優しい白雪姫のきりっとした魅力がメリハリの効いた芝居で立ち上がる。とてもいい。
段治郎は晃の心情に今ひとつ届かない。右近は学円を好演していたがどちらかと言えば、晃の方が適役に見えた。

高野聖
人も通わぬ山奥に迷い込み、煩悩を深め彼岸との境を綱渡りするような状況から辛くも帰還する男の話。この男は潔癖とか清潔とかでは全然ないのだが、僧侶であるからして煩悩深き故に誘惑には一層抗う。この辛抱、我慢なければ怪異も妖艶も滑稽に成り果てる。これは喜劇ではないのだが、海老蔵は血中にアドレナリンが大量分泌するような芝居は得手でも、畏怖、畏敬、不安、焦燥、戦慄などの情動を表現の対象とは意識していないようだ。
川での水浴びを一番の見せ場にもって来たのは良いが、あれはどう見ても混浴の露天風呂。海老蔵のぼんくら振りにつけても、もっと清涼感が欲しかった。それでも海老蔵、玉三郎きれいな役者だ。深山幽谷をどう見せるかに心砕いた装置が楽しめた。

終わってみれば、夜の部は笑三郎のもんだった。

2F1−27 7.28