2010/02/06

インビクタス


反アパルトヘイトの活動家として30年近く獄につながれていたマンデラが、新大統領として官邸に入った朝、新政権の黒人職員達は士気高揚とし、旧政権を支えた白人職員達は馘首を覚悟し戦々恐々としている。職員を一同に集め、マンデラは色の違いを越えて国の為に働いて欲しいと説く。

アパルトヘイトから民主国家へと定めた進路が、新たな人種間の対立と憎悪を生み出しかねない困難な状況にネルソン・マンデラはどう向き合い、自らの国家観にしたがって、どのように国を導いていったか。護衛官達をはじめ側近やラグビーチームなど大統領を取り巻く人々との関係を通して洞察とコミュニケーションの能力に優れたマンデラの人となりを丹念に拾い上げ、状況の変化も鮮やかに、国をひとつにしようと苦慮する男の肖像が描きだされる。
マンデラの人間性をモーガン・フリーマンが余す所なく伝えてくれているようだ。出演者は皆自然なキャラクターを感じさせて素晴らしい。何より、大きな構えの内に繊細さと簡潔さで迫る映像。イーストウッドの語り口に同化する至福。

本でも映画でも、まあ娯楽作品においては、状況の打開や、問題解決のために最も多用される手段は暴力だ。正義が悪を叩き潰すカッコいいヒーロの姿に慣れ親しみ楽しんできた。これからもそうしたカッコ良さを楽しむだろう。クリント・イーストウッドもそのようなフィールドでキャリアを重ねてきたわけだが、グラン・トリノを越えて、このように問題解決を暴力に委ねない極めて稀な作品を放ってくるというのは凄いことだ。今まで見てきた誰にもまして、モーガン・フリーマンのマンデラはカッコいい。そのかっこよさに何故か泣けてしまい前半は殆ど泣きながら観ていた。映画で泣くことはあっても大概数秒で押さえ込めるのに、こんなにダラダラと泣かされ続けた映画は始めて。年取ったせいかも知れないが、マンデラのことも勉強する。