2010/02/07

Dr.パルナサスの鏡


人の欲望を映し出す不思議な鏡が呼び物のパルナサス一座は貧しくも楽しい巡業の日々を送っていた。悪魔と取引した博士は目前に迫った返済期限にも為す術がない。このままでは悪魔の取り立てに屈し、最愛の娘を奪われてしまう。そんな時に転がり込んできた謎めいた男が、思いがけずに突破口を開いてくれる。

テリー・ギリアム一流のファンタジックな、というよりグロテスクな極彩色のイメージが次々と繰り出される中、貴族的な風貌と存在感が魅力のクリストファー・プラマーが狡猾でユーモラスなパルナサス博士を思い切った汚れ役で楽しそうに演じ、悪魔に狙われた娘リリー・コールが強烈なフェロモンを発散し、ヒース・レジャーが更なるいかがわしさを加えて、確かにこの猥雑さエロティシズムはギリアム印だ。しかし全体は案外上品で大人しくインパクトに欠けた。もし自分の欲望があの鏡に反映されたらと考る方がよほどのインパクトだが、それはともかく、クリストファー・プラマーと悪魔トム・ウェィツのやりとりには愛嬌があり、そこからはこれまでにない寂寥の気配が漂ってこれは悪くなかった。

ヒース・レジャーの死後、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの3人が演じ分けたパートは思いのほか長く、これでよく完成させられたものと感心したが、3人が入れ替わる設定によって一応の繋がりは見せているものの、やはり唐突さは免れない展開で、流れから見ていかにもすわりの悪さが気になった。これがヒース・レジャーだけで完成していたら、味わいは随分異なっていたのだろうと思った。興行的には女性客の動員につながったようで、客席ほとんどが女性で埋まった光景はテリー・ギリアムではない感じだった。