2009/02/09

NODA・MAP「パイパー」


人類が火星に移住してから1000年を経て、移住者達の子孫は、常に彼らと共にあった機会生命体「パイパー」ともども存亡の危機に瀕していた。刻々と近づいてくる滅びのタイムリミットを横目に、父は巨乳の若い後添えを迎えようとし、娘達は盛んに異議を申し立てている。

野田秀樹の新作。松たか子と宮沢りえの共演を楽しみに出かけたのですが、火星のコロニーがセットされたステージの、設定は直に吞み込めたものの、意外な幕開けにはちょっと面食らいました。宮沢りえは声がつぶれているようで、目が慣れるまで誰だか分かりませんでしたが、松たか子はいつもの通り溌剌とした台詞回しで精気に溢れ、この姉と妹が大量の台詞を応酬する様は楽しめました。大勢の出演者を縦横に動かして、時間と空間を自在に飛び越えるダイナミックなスペクタクルシーンなど、演出の創意も充分でした。

しかし、1000年かけて滅びてゆくものと、後妻を迎える家庭内騒動との関係が見えてきません。このマクロとミクロがどう交錯するものなのか、はたまた平行してものなのかが分からず、もどかしい思いがつのります。舞台はダイナミックな見せ場になっても、物語はダイナミズムを欠いて進みます。全てがデータ化され、目に見えないものや数量化できないものまでも数値化せずにはおれない現代を風刺する視線には共感しつつ、しかしタイトルにもなっている「パイパー」という存在もまた、実のところどういうものかよくわからず次第に落ち着かない気分になってしまいました。

「野田版 鼠小僧」「野田版 研辰の討たれ」「野田版 愛陀姫」などの言い方に倣えば、これはさしづめ「野田版 火星年代記」でしょうか。しかし、話の核となるパイパーという機械生命体の設定にしても、「ボタン」という記憶装置の設定にしても安易なものとの印象が拭えません。そもそも、この話を語るのに火星である必要があったのかも疑問に感じました。

「パイパー」作・演出 野田秀樹 NODA・MAP 第14回公演
出演:松たか子 宮沢りえ 橋爪功 大倉孝二 北村有起哉 小松和重 田中哲司
佐藤江梨子 コンドルズ 野田秀樹         シアターコクーン