2007/05/21

藪原検校 シアターコクーン


按摩、鍼灸などで細々と生計を立てる座頭から、盲人の頂点に立つ検校まで。独自の階級に組織化されていた江戸時代の盲人社会。貧しい座頭の杉の市は度胸と才覚で頭角を顕し、目明きに伍しで天下を取ろうと悪の限りを尽くすが、階段を上りつめようとしたその時、時代は大きく転回していた。

風雪に晒されたような板戸を隙間なく張り巡らせた装置に、寒村の貧しさや閉塞感が浮かび上がり、舞台上の格子状に張り巡らされた何本ものロープが社会の枠組みや規制を象徴する。一人何役も割り当てられた役者達がステージの隅で着替えし待機している。テンポの良さと素早い転換。濃い男達が伝える悪をまっとうした悪党の魅力。

ふてぶてしさと愛嬌でのし上がって行く杉の市は古田新太にうってつけの役どころ。人を喰った、ピカレスクな主人公の柄を余すところなく演じている。男臭い役者達の危ない匂いが充満するステージにあって、田中裕子が発散させる雰囲気。これがヤバいくらいにエロな魅力なのである。この妖艶さはちょっと目が離せない。田中裕子ってこんなにいい女だったとは。今迄全く分かってなかった己の不明を恥じるばかリ。

金が全てと悪の華を咲かせる古田杉の市に対し、目明きよりも一層の徳目と勤勉さで盲人の矜持を保つべしとする塙保己一を格調高く演じた段田安則の名演が劇全体をスパイシーに引き締めて実に印象的。時代に歓迎された人気者がその人気故に時代と権力に裏切られる。何時の時代にもある話だが、暗ーい話を唄と語りに乗せながら軽妙に面白く見せてくれるが、この面白さは、今と言う時代の確な写り込みによる面白さでもある。

終演後、コーヒーなど飲んでいたら、近くのテーブルに座った人の中に蜷川幸雄氏がいた。血色もよく艶やかな様子はタフな仕事ぶりも納得の若々しさだった。